( あんず色のよすが 3 )

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湿ったおもたい空気を切り分けて歩きながら、わたしはどっちつかずのよくわからない気持ちになっていた。




タツくんのこと、わたしがタツくんと過ごしている時間のことを誰かに話したのは初めてだった。


たったさっきまでわたしとタツくんしか知らなかったことなのに、でもわたしは話してしまった。錦戸くんに。




タツくんはいとこなのかと訊かれたからそれに答えたとするならそうだけど、しゃべりすぎてしまったような気がして不安で仕方ない。



タツくんはママの血の繋がっていない弟で、叔父ということになるのだけど、とても複雑な関係にあること。

ママが仕事で夜家にいない日は、わたしはよくタツくんの家にご飯を食べに行ったりしていること。

それがママにバレたらまずいから秘密にしていること。



教室の喧騒にまぎれて、わたしはひみつの話をこっそり打ち明けるみたいに話した。


そんなこと正直に言わなくたって、なんとなくごまかすことだってできたのに。


不安で仕方ないのに、ずっと誰かに言いたくてしょうがなかったことをやっと言えたときの開放感や満足感さえも感じていたし、得意げにすらなっていたかもしれない。




錦戸くんはあいまいな表情をしていた。

眉をすこし下げた、怪訝そうな顔。



それでわたしは我にかえって慌てて、「だから、いとこじゃないの。」ともう一度質問に対する正しい答えを言って会話を閉じた。





タツくんは、わたしが家に来ることやわたしの存在について誰かに話したりするんだろうか。

たとえば、友達や恋人――。



自らそう思い巡らせたのに、心臓がきゅうっとつよく圧迫されたような、息苦しさを覚えた。

タツくんは普段、自分のことをあんまりしゃべらない。それはわたしも同じで、でも、それはタツくんに話して聞かせるような友達も恋人もいないからだ。



タツくんはそうじゃないかもしれない。


わたしがタツくんに会わない日、タツくんがどうしてるかなんて想像しようと思っても、できなかった。



たちまちわたしは心細くなって、肌の表面に触れるじめじめと生ぬるかった空気がひんやりとつめたく冷えていくように感じた。




今日は金曜日で、タツくんには会えない。

始まったばかりの週末がはやく終わればいいと思った。





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