・ ページ35
・
「…ただいま。」
ダイニングテーブルで煙草を吸いながら携帯電話を耳に当てているママはわたしを一瞥して、煙草を持っている細くて白い手を私に向かってゆらりと上げる。
「うん、帰ってきた。最近ね、毎日友達と遊んだりしてて、社交的なのよ。いいことだと思わない?」
電話の向こうの誰か(それはおそらくソノダさんだと思うけど)に向かってしゃべるママの前を横切り、和室に逃げこむように入った。ママの布団はまだ、敷かれたまま。
「だって、そろそろ恋人ができてもいい歳じゃない。あの子くらいの歳の時なんて、私男の子とよく遊んでたもん。」
ふすま越しにママの軽やかな笑い声が聞こえる。
わたしはハンドバッグを畳の上に無造作に置くと、布団の上にどさりと寝転んだ。
目を閉じて、唇に一瞬触れた微熱を思い出す。
タツくんの高い鼻の先がわたしの鼻の先にぶつかりそうで、ぶつからなかったこと。暗闇でゆらゆらと揺れ動いていた瞳。ひっそりと止まったように感じた時間。
思い出すと胸がぎゅうっとなる。
寝返りを打ってあおむけになると天井の輪っかの明かりがまぶしくて、光を遮るように手を顔の上にかざした。
わたしはずっと、ママの手がうらやましかった。
華奢で指が細長くて、手首の骨はすこしでっぱっているけれど手のひらはふっくらとしていて。白くすべらかな肌に派手なマニキュアの色がよく似合う、手。
それは大人の女のひとの手で、それに比べて子どもの自分の幼なじみた凹凸がすくなくて丸っこい手が好きになれなかった。
一体、いつからなんだろう。
光にかざした自分の手の甲を見て、わたしはすこしおどろく。
ずっと子どもだと思っていた自分の手は、いつからか、いつのまにか、憧れていたはずのママの手の形にそっくりになっていた。
そのことがうれしいような怖いような、そんな気がした。
それからまた、わたしはタツくんのことを考える。
初めてのキスは、さびしくて心がしくしくと痛んで、それなのに恋しくてあたたかくて安心するものだった。
・
続く お気に入り登録で更新チェックしよう!
最終更新日から一ヶ月以上経過しています
作品の状態報告にご協力下さい
更新停止している| 完結している
←・
736人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズ」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
蒼 夢見子(プロフ) - もんさん» もん様、しばらくぶりの更新にも関わらず読んでくださりありがとうございます…素敵な感想までいただけて嬉しいです…(涙)気まぐれな更新になってしまっていますがお付き合いいただけるように更新頑張ります…! (2022年2月6日 14時) (レス) id: d76122eb40 (このIDを非表示/違反報告)
もん(プロフ) - 更新とても嬉しいです、蒼さんの作品がどれも切ないのに心が暖まって大好きです。 (2022年2月6日 1時) (レス) id: 88e425fb34 (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - 日玖さん» 日玖様、コメントありがとうございます。(お返事がひどく遅れてしまい申し訳ありません…)そう言っていただけてとても嬉しいです。更新が途絶え気味ですがなんとか最後まで書けるよう頑張ります…! (2022年2月5日 16時) (レス) id: 0bca9b395c (このIDを非表示/違反報告)
日玖(プロフ) - コメント失礼します!つい先日このお話にたまたま出会い、あまりにも好きすぎて一気読みしちゃいました……!続き、楽しみにしてます。これからも応援してます! (2021年10月12日 11時) (レス) id: bbffd7f7da (このIDを非表示/違反報告)
蒼 夢見子(プロフ) - しずくさん» しずく様、初めまして。コメントありがとうございます。書き始めてからたくさん時間が経ってしまい更新も気まぐれで申し訳ないですが、あたたかいコメントいただけて本当に恐縮です。これからも読んでいただけるよう頑張ります! (2021年7月19日 20時) (レス) id: 7499a18546 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:蒼 夢見子 | 作成日時:2019年12月5日 23時