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残しておいた準備を終わらせ、エントランスの入口で待ち伏せる。
Aが帰ってきたのは日が完全に沈んだ頃。
「あ、おかえり。」
「こんなところで何してんの?」
挨拶を返されないのは今更。それはいい。それよりも、だ。
「着替え、買わなかったんだ。」
「拳のお金でしょ。使うわけないじゃん。」
きっとAの事だから、電車代さえ全く使ってないんだろうね。
「よし、じゃあ行こうか。」
「は?どこに、何しに。」
「ショッピングモールに、Aの服を買いに。」
「え、ちょ、拳!」
血縁以外で、唯一俺を下の名前で呼ぶA。
いつから呼び捨てするようになったんだっけ?
最初の頃は拳にぃ、なんて呼ぶから俺が頼んでお兄ちゃん呼びは辞めさせたの、覚えてないんだろうなぁ。
嫌がるAを用意しておいたレンタカーの助手席に乗せるけど、すぐに出ていこうとする。
「拳!やめて!いらないから!」
「A!」
俺が声を荒らげると、ビクッと肩を震わせるAをあえて上から見下ろす。
「今まで3年半、全部俺が出てたんだし、今更服の1着や2着でごねないで?」
Aは悔しさからか唇をグッと引き結んで俺を睨んだ。
「ドア、閉めるから足引っ込めて。」
努めて柔らかい声で言うと、Aは大人しく従ってくれた。
俺は運転席に座って車を発進させる。
Aはショッピングモールに着く間、俺の方を1度も見てくれなかった。
初めて一緒に来たショッピングは思ったより楽しくて、Aは俺が手を繋ぐのは嫌がったけど一緒に着いてきてくれたし、下着以外は俺が選んだものの中から決めてくれた。
俺は肩幅が大きくてダボッとした服着がちだけど、Aは華奢だからどんな服でも似合う。
そろそろ次の場所に行こうと服屋が集まってるところから離れた時、とあるアクセサリーが目に止まった。
「A、ちょっとここで待っててくれる?」
「……。」
何も言わなかったけど、すぐ側の椅子に座った辺りちゃんと待ってくれるらしい。
アクセサリーショップに入って目当てのものを買い、すぐに戻る。
「お待たせ。」
「……カフェオレ、飲みたい。」
今日初めてAからの提案に俺は喜んでOKした。
隣でホットカフェオレを両手で少しづつ飲む姿は可愛い。
言ったら怒るだけだから言わないけど。
「じゃあ、行くよ。」
「ん。」
ようやく多少の返事をしてくれるようになったことに頬を緩ませつつ次の場所に向かった。
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辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました!fkrさんが詰め寄る感じいいですね!続編?半年後fkrさんとどうなっているのか気になります! (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは!そういって頂けてとても嬉しいです!最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは!結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました!続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ!気に入っていただけて良かったです!! (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:辰海恋歌 | 作成日時:2021年5月19日 16時