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「うん。これで拳も清々するでしょ。」
これでようやく、お互いの呪縛から開放される。
中学まではほとんど一貫の様なもので私と拳が婚約ごっこしてるのを完全に知られていて、拳が東京に行って高校こそはと思っていたけどいつの間にか周囲に知られていて、大学では初めから同居生活。
マトモな恋愛さえ出来なかったのだ。
「いや、あの……うん、まずはいくつか誤解を解かせて。」
「今更、どんな誤解があるの?」
「えっとね、ここの家賃払ってるの俺だよ。」
「……は?」
次に驚くのは、私の番。
「毎月の生活費も、俺が出してた。」
「え、でも拳はどっちも2人の両親が出してるって言ってたじゃん。」
「まぁ、そうでも言わないとAここから出ていきそうだったし。」
確かに、拳が私が生きていくお金を出していると知ったら、私は絶対に同居なんてしなかった。
「なんでわざわざ嘘までついて私と暮らしてたの?」
「それは……」
拳がなんの考えもなくそんな事するわけない。なにかの見返りなくこんな事しない。
「それは?」
「Aが俺の婚約者だから。」
「はぁ?」
意味が分からない。こんな気持ちの伴ってない婚約になぜここまでするの?
「っ、じゃあ分かった。お金は返すから。とにかく、この生活は3月で終わりでいいでしょ?それと一緒に婚約ごっこも終わり。」
「ごっこって……Aは俺の事婚約者だと思ってくれてなかったの?」
「思うわけないじゃん!ただいつも一緒に居させられてうんざりしてるのよ?それは拳だって同じでしょ?」
何度、何度こいつの「嫌い」を聞いただろう。
「俺は違うよ。俺はAと本気で結婚するつもりだよ?」
「はぁ!?意味わかんない!拳は私のこと嫌いでしょ!?」
「好きだよ。」
「っ……は?」
分からない。意味が分からない事だらけだ。
どちらから嫌いになったかなんて覚えてない。
とにかく私は、私たちは、お互いにお互いが嫌いだったはずだ。
少なくとも、私は拳が大嫌いだ。
「意味わかんない……。」
「Aーー」
「意味わかんないよ!今まで散々大嫌いだって言ってたくせに!」
私のキャパシティを超えた分が涙として溢れてくる。
拳は心配そうな顔をして手を伸ばしたけれど、私はそれが届く前に手で払って自室に閉じこもった。
「だって好きだなんて言ったら、Aは俺から離れるじゃんか……。」
小さく呟かれたその声は、本人以外に届くことは無かった。
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辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました!fkrさんが詰め寄る感じいいですね!続編?半年後fkrさんとどうなっているのか気になります! (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは!そういって頂けてとても嬉しいです!最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは!結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました!続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ!気に入っていただけて良かったです!! (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:辰海恋歌 | 作成日時:2021年5月19日 16時