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そして、帰る日程が決まると、密かに思いを寄せている山本さんを車デートに誘った。
私自身は想いを伝えるつもりもなく、彼もそのつもりがないと思っていたから、最後の思い出作りのつもりだった。
でも、それは失敗してしまった。
彼は、私に告白したのだ。
嬉しかった。嬉しくて嬉しくてしょうがなくて、それと同時に、悲しくて仕方なかった。
私はもうここを離れ、戻ってこない身。
そんな状態で、彼の申し出を受ける訳にはいかないのだ。
山本さんを振った次の日にオフィスに荷物を取りに行った。
「……なぁ、A。」
私が荷物を取りに来るためだけにオフィスを開けてくれた伊沢さん。
彼はこちらを向いて、心配そうな顔をした。
「なんですか?」
「その、目が腫れてる理由、って聞いてもいい?」
「それ、もう聞いてますよね。」
本当のことを言うか迷って、辞めた。
ただ、最後の思い出作りが失敗した、とだけ答えた。
荷物は朝から運び出してもらったので、あとはこの荷物を持って新幹線で帰るだけだ。
帰り着く頃には、丁度よく家具も届いてる頃だろう。
「……今まで、お世話になりました。」
「また何時でも戻ってきていいからな。」
伊沢さんは、最後までさよならをさせてはくれなかった。
そして次の日、弟のリハビリ治療の為に付き添って病院に行った。
すると、待っている間に山本さんから電話がかかってきた。
「姉ちゃん、出ないの?」
「……いい。」
「俺、呼ばれるまでもう少しかかるし、出てきなよ。」
ね?と首を傾げる弟に押されて、病院から出て電話をとった。
「……もしもし。」
電話の向こうの山本さんは、私の事情を伊沢さんから聞いていた。
私がわざと話さなかったことを。
そして、私が家族を支えるように、彼が私を支えることは出来ないか、と聞いてきた。
支えなら、もうなってますよ。
そう言うことは、出来なかった。
……私は、ずっと羨ましかった。
メンバーに愛され、視聴者に愛され、親に愛されている彼が。
だから、2割の本音を混ぜて、嘘をついた。
そして、もう二度と連絡してこないように言い捨てて電話を切った。
病院内に戻り、弟の隣に座る。
弟は、何も聞かずに手を握ってくれていた。
右手の指輪ーiniー→←車デート(Anotherstory)ーymmtー
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辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました!fkrさんが詰め寄る感じいいですね!続編?半年後fkrさんとどうなっているのか気になります! (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは!そういって頂けてとても嬉しいです!最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは!結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました!続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ!気に入っていただけて良かったです!! (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:辰海恋歌 | 作成日時:2021年5月19日 16時