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そこからはやっぱり無言で、心地よい振動に瞼が重くなってくる。


「……もしかして、今眠い?」

「んーん、大丈夫……。」

「分かった。眠いんだな。寝てもいいぞ。」

「うん……。」


しかし意識は完全に沈むことなく、程よい微睡みの中を漂っていた。


「……なぁ、A。」

ん?何?

「俺は、まだお前のこと好きだよ。」

え?

「本当は別れたくない。けど、もう遅いよな。」

なにそれ、どういうこと?


問いかけても、拓司はそれ以上何も話してくれない。

私は諦めて、完全に意識を沈めた。



とんとん、と叩かれて目を覚ますと家の目の前だった。


「ほら、着いたぞ。」

「ん……ありがとう。」


鍵を開けて中に入り、まだ覚醒しきってない状態でとりあえず化粧を落とした。


「そういや、今日はいつも以上に綺麗だったな。」


洗面台の物を回収しながら拓司が呟くようにそう言った。


「うん、まぁね。」


最後に水で顔を洗うと眠気はだいぶ遠ざかっていった。

その後、拓司が荷物を回収していくのをリビングでぼーっと眺める。

15分ほどして全てを回収し終わったらしい拓司がこちらに寄ってきた。


「ほら、俺もう帰るから、戸締りしてさっさと寝ろよ。」

「ん……。」


立ち上がり、拓司を玄関まで見送る。


「……じゃあな。」


今なら分かる、少し寂しそうな笑顔。

割とポーカーフェイスなこの人の表情を見分けるのに、最初はかなり苦労したものだ。


「ね、拓司。」

「ん?」


ちゅ、と触れるだけのキスをする。

拓司は驚いたように目を見開いて、こちらを凝視した。


「私の事まだ好きなら、最後に素敵な思い出を頂戴?」


どさ、と荷物が落ちて、次いで乱暴で深いキスをされる。

すぐに息が乱れて、身体が熱くなった。

優しく横抱きにされ、ベッドに運ばれる。

その日の夜は、最初の夜と同じように優しく、それでいて激しく突き抜けるような快楽に脳がどろどろに溶けていった。



目が覚めると拓司は既にいなくて、書き置きに少し雑な字で『荷物は送る。』と書いてあった。

これで本当に終わったのだ、と理解した。

お互い、戻るタイミングはあった。

それでも、綺麗な記憶にすり替えて終わりを選んだのだ。


涙は、もう零れることさえなかった。




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リクエストでの「切なくて甘い」を書こうと思ったら最後甘くならなかった話の供養です。

リモート参拝ーkwmrー→←____



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設定タグ:QuizKnock , QK , 短編集   
作品ジャンル:恋愛
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辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました!fkrさんが詰め寄る感じいいですね!続編?半年後fkrさんとどうなっているのか気になります! (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは!そういって頂けてとても嬉しいです!最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは!結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました!続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ!気に入っていただけて良かったです!! (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:辰海恋歌 | 作成日時:2021年5月19日 16時

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