＿＿＿＿(ありがとう) ページ16
｢Aさん、良かったら、一緒に帰らない？｣
｢えっ、伊沢さん。お疲れ様です。別にいいですけど。｣
少しだけ驚いた様子の彼女は、きょとんとしながらも了承してくれた。
俺は彼女の歩幅に合わせつつ隣を歩く。
｢……今日、本当はどっちだったの？結婚式？お葬式？｣
｢……。｣
Aさんは何も言わなかったけど、目が飛び出るんじゃないかってくらい、驚いた顔をした。
｢……嘘をついたことは謝ります。｣
｢そうじゃないだろ。｣
話をそらされそうになって、思わず冷たく言い放ってしまった。
彼女はそんな俺に昨日と同じように困ったような、曖昧な笑顔を浮かべた。
｢すみませんでした。｣
その言葉はやっぱりそれ以上踏み込んでくるなと言わんばかりで。
俺はもどかしくなって、必死になった。
｢俺は、Aさんが好きなんだ。だから、Aさんの笑顔が消える理由があるなら、その原因を半分なんて言わない、1割でいいから分けて欲しいんだよ。｣
Aさんはまたびっくりしたように目を見開いてこちらを向いた。
2人とも、足は止まっていた。
｢……どこか、個室のあるお店知ってます？｣
彼女の今にも泣きそうな笑顔で俺は我に返り､彼女の提案通りのお店に案内した。
飲み物が届いて個室で2人きりになると、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
｢2日前、祖父が亡くなったんです。｣
……やっぱり、本当はお葬式に行ってたんだ。
｢自分の家は、というか、お爺様は男尊女卑の考えが強い人で、弟の事は目に入れても痛くないみたいに可愛がってたんですけど、私のことはろくに名前も呼んでくれないし、呼んだと思えば用事を言いつけるくらいしかしなくて……だから、今日の葬儀も必要最低限だけにして半休だけ貰ってたんです。｣
お爺様、となんの躊躇いもなく呼ぶ辺り、彼女の中に刻まれたものはかなり深いものなんだろう。
｢別に、お爺様に厳しい態度を取られていたと言っても、高校卒業後は一切会ってませんでしたし、家族も自分には祖父の話はしてこなかったのでもういいんですけど。｣
もういい、と言う割に悔しげな表情で酒を煽る姿はどうしてもそれが本心だなんて思えなくて。
｢……Aさんはさ、お爺さんにどうして欲しかった？｣
｢……少しくらい、認めて欲しかった。｣
ぽろぽろと静かに泣き出したAさんに、カバンに入っていたポケットティッシュを渡す。
Aさんはそれを受け取ると軽く涙を拭った。
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辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (
レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました！fkrさんが詰め寄る感じいいですね！続編？半年後fkrさんとどうなっているのか気になります！ (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは！そういって頂けてとても嬉しいです！最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは！結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました！続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ！気に入っていただけて良かったです！！ (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：辰海恋歌 | 作成日時：2021年5月19日 16時
