彼女のヒーローーizwー ページ14
人生を本にするなら、俺の物語は俺が主人公なのだろう。
そしてヒロインは、Aさん。
しかしながら、彼女の物語においてヒーローは俺じゃない。
それどころか、モブ程度の存在だろう。
俺と彼女の仲は薄い訳ではない。
仮にもCEOと社員だから。
でも、仕事に必要最低限の円滑なコミュニケーションを取る以外、関わりがないのだ。
そんな彼女に恋心を抱いたのは彼女が会社に入ってきて半年くらいのこと。
「伊沢さん。」
「ん?」
「これ、落ちてましたよ。」
何気ない、落し物だった。
「ありがとう。」
拾ってもらったお礼を言って受け取ると、Aさんはにこりと笑って近くの部屋に入っていこうと扉を開けた。
ガンッ
「っっっ!!!」
わざとかと思うくらい思いっきり小指だけをドアの端にぶつけて悶絶するAさん。
「っくく、ハッハッハ!!!」
俺が堪えきれずに笑い出すと、Aさんは耳まで真っ赤に染め上げて今度こそちゃんと部屋に入っていった。
その時俺は重要な案件が重なっていてかなり疲れが溜まっていたのもあり、ドアの向こうに消えた彼女のギャップは俺の心臓にしっかりと衝撃を与えた。
……たったこれだけの事だったが、俺は彼女を好きになったのだ。
それからは彼女を見かける度に目で追いかけて気にしてしまっている。
Aさんは、俺とは仕事以外で会話しないが、志賀とはよく話している。
よく2人で談笑しているところを見るに、おそらく仲がいいんだと思う。
彼女にとってのヒーローは、志賀なのかもな。
そんなことを考えていたある日、キッチンに飲み物を取りに行くと、Aさんがマグカップを両手で持ってぼーっと虚空を眺めていた。
少しして俺が入ってきたことに気づいた彼女は、ハッとして慌てて出ていこうとした。
「待って。」
声をかけると立ち止まる彼女。
「どうしました?」
それはいつも通りの笑顔なのだが、さっきの表情を見てそのまま仕事に戻すことは出来なかった。
「Aさん、どうかした?何かあった?」
Aさんは困ったような、曖昧な笑顔を浮かべた。
「特に何も無いですよ。」
それはこれ以上踏み込んでくるな、と言っているようで、俺は何も言えなかった。
パタン、と閉じられた扉は、もどかしいくらいに遠い心の距離のようだった。
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辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました!fkrさんが詰め寄る感じいいですね!続編?半年後fkrさんとどうなっているのか気になります! (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは!そういって頂けてとても嬉しいです!最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは!結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました!続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ!気に入っていただけて良かったです!! (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:辰海恋歌 | 作成日時:2021年5月19日 16時