月と夕日と雨音とーsgー ページ12
カラン、と氷の溶ける音がする。
私と彼の間には、絶妙な空気が流れている。
「……それで、話って何?」
彼が、努めて朗らかに聞いてくる。
私は彼の目を見ることが出来ず、耳元で光るピアスを見つめた。
「その……別れ話、が、したくて……。」
彼は首を傾げて私と目線を合わせようとする。
それに対して、私は慌てて視線を逸らす。
「……なんでか、理由を聞いてもいい?」
私と目線を合わせることを諦めた彼は、元の体制に戻ってそう聞いた。
「その、最近さ、忙しくてあまり連絡も取れてなかったし、それにその、気持ちが冷めたっていうか……その……」
「Aちゃん。」
私の言い訳は、朗らかな彼の声で遮られる。
「別に怒らないから、とりあえずこっち向いてくれないかな?」
恐る恐る彼の方を向くと、彼は驚くほど穏やかな笑顔を浮かべていた。
一つ一つ優雅に感じる仕草で紅茶を飲んだ彼は、カチャリとカップを置いてまた笑った。
「それで、Aちゃんはなんで僕と別れたいの?」
僕、という言葉にドキリとする。
頭の中にうかべていた無数の言い訳が全部吹っ飛んでいく。
「っ……好きな人がいるの。だから、別れて。」
本当の理由は、あっさり私の口から解き放たれた。
彼は少しだけ目を見張り、また元の笑顔に戻った。でもさっきより、悲しそうな顔。
「そっ、か。それじゃあ仕方ないね。」
彼は紅茶をぐっと飲み干すと、やっぱり穏やかな笑顔を浮かべた。
「最後に、一言いいかな?」
「なに?」
「……夕日が、綺麗ですね。」
「っ……そろそろ帰りましょう。」
私の返答を聞いて満足したのか、彼は立ち上がりレジで会計を済ませた。
広くないそのカフェを出ていく直前、私は呟くように言葉を続ける。
「でも、今までもこれからも、月はずっと綺麗です。」
振り返った彼は、泣きそうな顔をして、でもこちらに来ることはなく出ていった。
ポチャン、と珈琲に雫が落ちた。
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辰海恋歌(プロフ) - あすさん» 早速読んでいただきありがとうございます。この後どうなるかも一応考えてはいますが、次回の短編集のテーマとは少し合わないと思うのですぐに公開、という訳ではありませんが、必ずあす様の目に留まる形に致しますのでしばらくお待ちください。よろしくお願いします。 (2021年11月5日 0時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - 辰海恋歌さん» 早速続き拝見しました!fkrさんが詰め寄る感じいいですね!続編?半年後fkrさんとどうなっているのか気になります! (2021年11月4日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» こんばんは!そういって頂けてとても嬉しいです!最後まで気に入って頂けますと幸いです。 (2021年11月4日 20時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
あす(プロフ) - こんばんは!結ばれる悲劇、終わらない悲劇を読んで切なくもありますがとても気に入りました!続きが気になります… (2021年11月3日 22時) (レス) id: 14b7e1c0b8 (このIDを非表示/違反報告)
辰海恋歌(プロフ) - あすさん» いえいえ!気に入っていただけて良かったです!! (2021年7月17日 23時) (レス) id: e014f887e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:辰海恋歌 | 作成日時:2021年5月19日 16時