川上さんと初デートに行く話。9 ページ9
チケットを買おうとすると「あ、もう買ってある」という彼の一言で私は凍りついた。
買 っ て あ る で す と ?
ぽかんと呆ける私の手を取ったまま、彼は入場口の方へとサッサと歩いて行く。
なんてスマートなんだろうと感動しながら中へと入ると、そこにはすぐにイワシの大群が広い水槽を泳いでいた。
『わぁすごい!』
あまりに大群すぎて、もはや圧巻だ。
レオ・レオニのスイミーのようだと思いながら、私はその銀色に光る魚達を眺めた。
彼も無言でそれを見つめている。
よし、今が調べてきた豆知識を披露する時!
私はしたり顔で饒舌に語り始める。
『こんなに多くのイワシが群れを成して泳いでいるのにも関わらず、なぜぶつからないのかといいますと、イワシには側線器官という水流や水圧などの
圧力変化を感じる器官を持っているからなんです』
ペラペラと突然喋り出した私を見て、彼は不審そうな顔をした。
『この側線器官は胴体部分の側面についており、この側線器官があるおかげでお互いぶつからず群れで泳ぐ事ができるんです』
得意気な私をジッと見つめ、
「…それ、わざわざ調べてきたん?」
と彼が問いかけてきた。
『はい!これで川上さんを退屈させないようにと!』
気合が十分にあることは、これで彼に伝わっただろうか。
ドヤ顔で息を巻く私に、しばらく黙っていた彼が口を開いた。
「そんなんええから。普通に楽しも」
まったく想定していなかった言葉に、私は普通に傷ついてしまった。
思わずガックリと肩を落とす私に、彼はこう呟いた。
「いやそんなことせんでも、彼女と一緒にいて退屈するわけないやん」
私の頭を優しくぽんぽんしてくれる彼に、私は胸が苦しくなるほど締め付けられた。
彼女。私が、川上さんの。
改めて彼に言われると、なんだか妙に照れくさくて。
彼がぽんぽんしてくれたところに触れながら、胸をじーんと震わせたのだった。
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Annie(プロフ) - ひなたさん» ひなたさん、コメントありがとうございます。大事にお読みいただけて、本当に嬉しく思います。出来るだけ現実を忘れられるような、幸せなお話が書きたかったもので…。そう感じていただけて、私の方がお礼を申し上げなければならないくらいです。ありがとうございます。 (2020年7月2日 21時) (レス) id: 8c53967ba8 (このIDを非表示/違反報告)
ひなた(プロフ) - 後書きがある時点で今後は書かれることはないのだろう、と大事に大事に読ませていただきました。私も読みながら泣いちゃいました。このお話のkwkmさんが優しくて、消化出来ない色んな気持ちを大丈夫だよって勝手に言ってもらえたようでした。ありがとうございます。 (2020年7月2日 11時) (レス) id: f0ee8abf5f (このIDを非表示/違反報告)
Annie(プロフ) - ゆうかさん» ゆうかさんお読みくださいましてありがとうございました。温かいコメントをいただけて、本当に書いてよかったと心から思っています。これからも他のメンバーのお話を書いていければと思っていますので、引き続きお付き合いいただけましたら嬉しいです。 (2020年7月1日 12時) (レス) id: 8c53967ba8 (このIDを非表示/違反報告)
Annie(プロフ) - 217さん» リクエストありがとうございました。絶対に今日中に書き上げなければと23:57に滑り込みで公開させていただきました。現実からかけ離れて、楽しんで読んでいただけることを願いながら書きました。宝物と言っていただけて、本当に涙が出るくらい嬉しいです。 (2020年7月1日 12時) (レス) id: 8c53967ba8 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - 素敵なお話をありがとうございました…! (2020年7月1日 7時) (レス) id: 41b5f36188 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Annie | 作者ホームページ:https://twitter.com/kmu_annie?s=09
作成日時:2020年6月30日 23時