【結城哲也と将棋】 ページ9
パチッ…
パチッ…
毎年恒例の夏合宿の初日。
夜のマネージャー室に、将棋を指す音が響く。
私はため息をつきながら振り向いた。
「ねぇ。そろそろ終わりにしたら?ってか、なんでここでやってんの?」
「ここが一番静かだからな。」
「…だ、そうです。」
将棋盤を挟んで向かい合っているのは、哲と御幸。
「マネージャー室を私用で使わないでよねー。」
と文句を言えば、
「宿題やってるAさんに言われたくないですね。」
と御幸に返される。
…バレてたか。
「王手 」
「む…」
7局目を迎えている対戦は、決着がつこうとしていた。
「…まいりました。」
哲が正座したまま頭を下げる。
今回も御幸の勝ち。
「哲さん、俺、そろそろ行かないと…」
「そうか…。仕方ないな、また明日頼む。」
「………………じ、時間があれば。」
そう言うと、御幸はスタコラと逃げ出して行った。
やれやれ、これでやっと集中できる…と、思ってたら、ジィッと熱い視線を感じた。
「…えっと…哲?」
「A、一局頼む。」
「いや、私、将棋なんて知らな………哲。無表情で『将棋入門』差し出すのはやめて。」
結局、私は『将棋入門』片手に哲と将棋を指すことになってしまった…の、だが。
「…で、こう、で…あれ?これ、王手?」
「む…」
なぜか勝ってしまった…。
その後、3局ほど続けてみたんだけど…
「ちょっと待って!哲!なんで私に負けるの!?」
「弱いからじゃないか?」
「 自分で冷静に言わないでよ…。」
どうやら、哲の将棋の弱さは筋金入りらしい。
そのくせ…
「A、もう一局だ。」
おきあがりこぼしのように、繰り返し挑んでくる。
み、御幸の気持ちが、ちょっとわかったかも…。
「て、哲。けっこう遅くなってるし、さすがに私も帰らないと…。」
「まだ大丈夫だろう?」
「いや、まぁ、大丈夫っちゃ大丈夫だけど…。」
「何ならお前も俺たちの部屋に泊まればいい。」
腕を組んで将棋盤を見つめたまま、哲が言った。
……あぁ、これは、また忘れてるな…。
「哲。大事なこと忘れてる。」
「何だ?」
「私、女の子なんだけど。」
「…っ!!」
「………哲。本気で『しまった』って顔しないで。本気で傷つく。」
「………はぁ。」
「………そこまで反省しないでいいよ…慣れたから…。」
「…………………。」
「同情の視線だけはやめてくれる!?」
こうして、合宿初日の夜はふけていった…。
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暇人 - フランス革命さん» ちゃんと読んでなくて草。中学生ではないネタ何個もあるのに。 (1月6日 11時) (レス) id: 9409c0bbe7 (このIDを非表示/違反報告)
味塩 - すごく好みで面白かったです!!ギャグ夢大好きで、夢主のノリも理想通りで本当に最高でした…!全シリーズ読んだのですがまた最初から読みたくなっちゃいました。どれもそのキャラらしさが出ていて本当に面白いです (2022年10月27日 1時) (レス) id: 2296c25889 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん丸(プロフ) - もう、すごく面白くて、大笑いしました。亮介さんLoveなので、本当はこのキャラでの長編が読みたいですが、続きも楽しみです。 (2022年1月26日 20時) (レス) @page49 id: 07285a2235 (このIDを非表示/違反報告)
にゃん丸(プロフ) - もう、すごく面白くて、大笑いしました。 (2022年1月26日 20時) (レス) @page49 id: 07285a2235 (このIDを非表示/違反報告)
フランス革命(プロフ) - 中学生バレバレで草。高校のテストこんな甘くねーよ (2019年7月29日 21時) (レス) id: 6067ba3fc2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雪星 | 作成日時:2015年6月7日 16時