【ダイヤのA】部活終了後のマネージャー室《短編集》

【倉持洋一の姉？】★ ページ32

コンコンコン

「はいはーい。ごめん、今手が塞がってて。入っていいよー。」

棚の整理をしていた私は、段ボール箱を持ったままノックされたドアに向かって声をかけた。

「失礼しまーす。」

「なんだ、倉持か。」

「Aさん、何か新しい関節技教えてくださいよ。」

「……はあ？」

私は思わず段ボール箱を落としそうになった。
いきなり何を言い出すんだコイツは。
とりあえず目の前の棚に段ボール箱を突っ込みながら、私は倉持に聞いてみる。

「何なの？ってか、私、関節技はあんまり詳しくないし…。倉持の方が知ってると思うけど。」

「いや…沢村に色々かけてるんッスけど、アイツの関節、柔軟過ぎて中々俺の技が決まらないんスよ。」

「…沢村、また何かやらかしたの？」

「やらかしたっつーか…部屋でニヤニヤしながら携帯弄ってると思ったら、あの野郎、若菜と！俺の若菜とメールを！」

若菜ちゃんというのは、確か沢村の中学の同級生。
倉持とは面識がないはずで、『俺の若菜』という表現は120％間違っている。

「…倉持。それただの八つ当たりじゃない？自分にキャッキャウフフとメールできる女の子がいないから…」

「そんなんじゃないッスよ！」

「あ！何なら私とメールする？」

「Aさん相手だと、キャッキャウフフじゃなくてギャーギャーぐふぅっ、になるじゃないッスか。」

「…いくら私でも、メールで身体攻撃はできないっての。」

「いや、Aさんならできそうな…」

「倉持。関節技は無理だけど、裏打ちとか足刀蹴りなら今すぐその身に刻み込んで教えてあげられるけど、どうする？」

「さーせんゴメンナサイ俺の明るい未来を奪わないでください。」

ペコンと頭を下げて倉持が言う。
まったく…。

「…あのッスね…」

「なによ。」

「やっぱりAさんだと、こう…淡い恋のドキドキみたいな気持ちにならないんスよね…」

「どうせ私は恋愛対象外の女ですよー。」

「あぁ、いや、そうじゃなくて。なんか、姉貴みたいっつーか…」

…姉貴、かぁ。
女であることを忘れられてたり、殺し屋って呼ばれたりしてることを考えると、姉貴というのはかなりいい方なのかもしれない。

「いや、姉貴っていうより…」

そう言うと、倉持は少し考えて、何かを思い付いたのか顔を輝かせた。

「姐(あね)さんっ！」

「…そこは姉貴でよくない？」

「いや、もう姐さんじゃなきゃダメッス！」

「倉持が言うと、何かの組織みたいに聞こえるんだけど…」

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