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Aside
物理的に離れてみて、最初に感じた違和感が、ただ大きくなっていって別れた。それだけだった。先輩が大学で新しいものに出会って変わっていくところを、こつこつ勉強しながら、閉鎖されたいつもの空間にいるわたしは、ただみていることしかできなかったから。
まるで海賊船にでも乗ったかのような先輩は、わたしのいる田舎の港にたまに帰ってきてくれた。荒波にもまれて、トラブルにあったり宝の地図が破れていたり暗号だったり、遭難して無人島についたり。そういう刺激的な冒険を先輩がしている間、わたしはただ港で待っていた。それは、全然悪いことじゃないけど、今の先輩にとっては退屈だろうな、って思った。…わかりにくい例え。わたしにネタは書けないな。
結論。もし先輩が、わたしにとらわれることなく大海原に飛び出せたら、と気が付いてしまってからはもう、どうにもできなかった。
そうやっていつまでも曖昧に関係を続けていくのはいけないと思いながらも、結局冬になろうとしていた。もう少し我慢して、わたしが卒業してしまえば、同じ目線で物が見れる、という甘えた気持ちもあったかもしれない。
そんなとき。
『あ、』
予備校の帰り、富永先輩を見かけた。
先輩は優しい顔で小柄な女性の頭を撫でると、手を振った。どうやらデートだったらしい。よく見れば、夏祭りで見た、あの彼女さんだった。
『富永先輩!』
彼女さんの姿を、見えなくなるまで目で追ったあと歩き出そうとした先輩に声を掛ける。
ト「…おう」
テンションが低い。
『…な、なにかありました?』
ト「べつに」
『え、嘘じゃないですか』
ト「俺のことはいいんだよ。…あのさ、お前さ、」
『はい?』
ト「…あー、なんつーか、…俺カンタとコンビ組んでやってくから、」
『、』
ト「…本気だから」
お笑いを、本気で、
それがなにを意味するか、どういう道なのか、知らないわけがなかった。お二人は絶対おもしろい、と思うと同時に、その決意の邪魔をしたくない、と強く思う。
どれだけ厳しい道か、本人たちが一番よくわかっているはず。
『そうですか。…応援、してます、…本当に、心から』
困ったように笑った富永先輩はもうとっくに高校性じゃなくて、もっと言えば大学生にも見えなかった。一人の人間が人生の岐路に立っている。
つづく
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社長室(プロフ) - じゅんりさん» お気遣い本当にありがとうございました。更新は未定ですが、眠っている短編からアップしていこうと思っています、その時はよろしくお願いします。 (2020年1月8日 22時) (レス) id: 4147535b1c (このIDを非表示/違反報告)
じゅんり(プロフ) - お気づきになったみたいで良かったです(^^)社長室さんの書く作品大好きなので、また作品上がるのを楽しみにしてます(^^)! (2020年1月7日 10時) (レス) id: a9d9714e3d (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - じゅんりさん» コメントありがとうございます。インスタには載せておりませんので無断転載になります。じゅんりさんのコメントでアカウントも把握することができました。ありがとうございます。放置ぎみになっていたところにわざわざコメントいただいて感謝です。出来る限り対処します (2020年1月6日 23時) (レス) id: 4147535b1c (このIDを非表示/違反報告)
じゅんり(プロフ) - 社長室さん初コメ失礼します。インスタに、こちらの学パロ載せたりしてませんよね?無断転載されていると思います。アカウント名など、もしお知りになりたい場合はお教えします。私もいち書き手、いちファンとして許せないので不適切アカウントとして報告しておきますね (2020年1月3日 22時) (レス) id: 035108e004 (このIDを非表示/違反報告)
社長室(プロフ) - おかきさん» コメントありがとうございます!終わるとみせかけて終わりません、すみません!よろしければもう少しお付き合いください〜 (2019年5月28日 13時) (レス) id: 37f3407064 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:社長室 | 作成日時:2019年3月25日 23時