非番はずっと恋模様

　8-3．なんてこと ページ10

SIDE：志摩


「伊吹、犯人発見」


公園の中の噴水近くで包丁を振りかざす犯人を見つけ、俺は耳のイヤフォンを押さえそう言った。
彼の周りには座り込む人たち。Aの姿は見つからなかった。


「俺も見えてるよ、志摩ちゃん」


俺が犯人の真正面なら、伊吹は後ろ。狩りに出たくてうずうずしてる顔だ。


「後ろから行けるか？」

「もちろん」

「頼んだ」

「りょーかいっ」

そう言った瞬間、伊吹が犯人目掛けて走り出す。


しかし


「あっ！おいっ！」


周りの目線が移動することが分かったのか、後ろを振り向いた犯人はすぐに向き直って走り出した。


「クッソ、待てお前！」

「犯人逃走！」

悔しがって追いかける伊吹と、無線で本部へ連絡しながら走る俺。


すると、


「来るなっ！！」


出口へ向かって走っていた犯人が突然立ち止まり、こちらを向いた。


そこには、


「Aっ…」


ちょうど向かいから歩いてきたと思われるAが犯人に捕らわれ、首に包丁を突き付けられていた。


「…や、やだっ…」

知らない男に触られるのも嫌なのに、彼女を泣かすだと？


許せない。


「…お、おい志摩？」


彼の方へ向かって歩き出した俺を見て、驚く伊吹。


「来るな！来るなって言ってんだろ！」


犯人も錯乱状態だ。このままじゃ何をするか分からない。


だから、


「望みは何だ。言え。車か金か」


怒りが最高潮に達するのを抑えて、犯人に尋ねた。


「とっ、逃走用の車両！」

「あそこ見えるか？メロンパンの車。あれは警察の覆面パトカーだ。あれをやる。だから彼女を返せ」

「…鍵は？」

「伊吹、鍵」

犯人の望み通りにしてやろうと、伊吹の方に手を伸ばす。

「…志摩」

「鍵っ！」

「…やるよ」

唖然とする伊吹にそう怒鳴ると、伊吹は犯人の方へ鍵を投げた。犯人が、こちらを見ながら鍵を拾おうとしゃがむ。


その時だった。


「はい、現行犯逮捕！」


後ろからやって来た班長が犯人を羽交い絞めにし、九重がその手から包丁を奪った。


「お、おい、志摩？」

伊吹の声なんか無視して、ずかずかとそいつの方へ歩み寄り、


「陣馬さん、後で始末書書くんで」


そう言って一発思いっきり犯人の顔を殴った。


「志摩やめろって！！Aちゃん見てんだろっ！！」

俺を止める伊吹の声を聞いた瞬間、


「…Aっ」


我に返って、座り込む彼女に駆け寄った。

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