非番はずっと恋模様

17．絶不調だけど絶好調 ページ28

「ただいま」

朝10時。勤務を終え家に帰ると、見慣れたパンプスが目に入った。


しかし、


「A？いるのか？」


いつもなら俺の名前を呼びながら猛突進してくる彼女の姿がない。
仕方なく靴を脱いで、寝室へと向かい、ドアを開けた。


すると、


「…お前、まだ寝てんのか」


ベッドが人一人分こんもり盛り上がっていた。いやいや、朝寝坊にも程があるだろ。


「…ん？かずくん？」

「ただいま」

「…おかえんなさい」

俺の声で目を覚ましたのかぽやぽやとした寝顔をこちらに向けながら、手を伸ばしてきた。


でも、


「…A、お前なんか熱くないか？」


握ったその手がいつもより熱を持っていた。


「…うん、微熱」

「病院は？」

そう答える彼女のおでこに手を当てて尋ねる。

「…行かなくていいやつ」

「…ああ、そうか」

Aの言葉を聞いて、俺はいろいろと察した。月一のあれらしい。

「起こして悪かった。もう少し寝てろ」

「…ん」

「欲しいものはあるか？冷却シートとか」

「…くん」

「悪い、聞こえなかった」

いつもより小さい声がよく聞こえなくて耳を近づけると、


「…かずくん」


彼女は布団を口まで持っていき呟いた。


こいつは本当に、なんというか、


「…たちが悪い」


イラ立ちと嬉しさが入り混じった変な感情のやり場を、彼女のおでこに定めてキスを落とした。


「…へ？」

「…こっちの話。シャワー浴びてくるから、先寝てろ」

間抜けな顔でこちらを見つめる彼女の頭をポンポンと撫で、クローゼットへ向かう。

「…終わったらこっち来る？」

「うん、俺も勤務終わりで眠い」

「…いつ来る？」

「いつって、すぐじゃないのか？シャワー浴びるだけだし」

「…すぐ？すぐってどれぐらい？」

「なんだ、早く来てほしいのか？」

脱いだカーディガンをクローゼットに掛けながら、背中越しに彼女の質問に答えていると、


「…うん。早くここ来て」


本人には自覚はないのだろうが破壊力抜群の一言が返ってきた。


「お前、今日絶好調だな」

「…えー…絶不調だよ…」

「そっちの話じゃなくて」

ベッドに横たわる彼女を立ったまま見下ろしていると、

「…もー、かずくんさっきから意味分かんな」

今にも彼女のイライラが爆発しそうだったので、言葉を遮り、


「可愛すぎるって話だよ、バカ」


ほんの一瞬触れるだけのキスをした。 

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