非番はずっと恋模様

1．天然の脅威 ページ1

深夜、勤務を終えて帰宅し、ソファでパソコンをいじっていると、


「…かず、くん」


リビングのドアが開いて眠そうな彼女の声がした。


「…悪い、起こしたか」

「…ううん」

「少し仕事が残ってるから、寝てろ」

そちらに目を向けると、彼女がテクテクと歩いてきたから寝室に戻るよう促す。


でも


「…やだ」


彼女はそのまま俺の隣に座ってしまった。いや、半分寝てるだろ。


「やだじゃない」

「…ここにいちゃだめ？」

「ちゃんと寝ないと明日ミスするぞ。それでもいいなら、いてもいい」

「…はぁい」

キーボードをカタカタと叩きながらそう言うと、彼女は諦めたのか立ち上がった。


でも、その後ろ姿が何とも寂しげで、


「…あー、もー。何だ、どうしてほしいんだ」


俺もたいがい甘いな、なんて思いながら彼女の背中に声を掛けた。


「…へ？」

「そんな絶対納得してない『はい』聞いて、普通に仕事できるわけないだろ」

「…かずくん」

「ほら、言ってみろ。何してほしいんだ。何したら寝るんだ」

少しだけ嬉しそうな彼女を見ながら、俺はパソコンをテーブルの上に置くと、


「…ぎゅー、してほしい」


彼女が俺の方に手を伸ばす。


可愛すぎるだろ、とは言えず、


「…おいで、ほら」


と、仕方なく(実際は仕方なくなんかないが)俺も腕を伸ばした。


「…んふふっ」

「ずいぶんと嬉しそうだな」

「…うん、うれしい。かずくん大好きだもん」

ぽふんっと俺の腕に飛び込んできた彼女を受け止め、頭を撫でてやると俺の肩に顔を埋める彼女。

「…お前、それは作戦か？」

「へ？」

「俺に仕事をさせない作戦なのか、と聞いてる」

「作戦なんかじゃないよ、本当に思ってるの」

「…いっそ作戦の方が良かった…」

そんな、天然の脅威を知った夜。 

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