想い草2(兄者・乙・弟者) ページ49
「兄者の好きな子かぁ」
再び静寂になった玄関先で、私は口に煙草を持って行きながら呟いた。今まで恋愛話なんてこれっぽっちも出さなかった兄者が珍しい事を言うものだと思いながら、ゆっくりと吸って吐いた紫煙を眺めた。まぁ、それくらい本気になる子が出来たのは喜ばしい事だ。
「Aちゃーん、夕飯何が良いー?」
1人思考を巡らす私に今度はおついちが玄関のドアを開けながら顔を覗かせた。
「皆が食べたい物で良いよ。さっきまで一緒に動画編集してたんだから夕飯作る前に少し休憩すれば?」
振り返って苦笑して答える私におついちはそれもそうだねと言うと、靴を履き直して外へと出て来た。唸りながら横で全身を伸ばすおついちに、私は笑いながらお疲れ様と声を掛けた。
「お疲れちゃん。前から気になってたんだけどAちゃんって何の銘柄の吸ってるの?」
「あー、海外製の女性向けのやつだよ」
ハイっと言って私はポケットから煙草の箱を取り出しておついちに手渡した。
「へぇ、1ミリか。随分軽いね。・・・1本味見に貰っても良い?」
「良いよ。おついち煙草吸えるの?」
「昔ちょっとだけねー」
そう言って手慣れた様子で箱から煙草を取り出し、口へと咥えた。
「へぇ、意外ー。ちょっと待ってね、ライターライター・・・」
火を貸そうと私は煙草を口に咥えてライターを探しにポケットを漁るが、自分の火を点けた後に無意識に何処かのポケットにしまったらしくなかなか見つからない。そんな私を見ていたおついちが苦笑混じりに私の肩を指先で叩いた。
「Aちゃん、こっち向いて」
その言葉に私がおついちの方へ顔を上げると、自身が咥えた煙草の先を私の煙草の先へと優しく押し付けた。煙草の先を付けたままゆっくりと息を吸い、自身の煙草に火を点ける。
「有難う」
突然のシガーキスに驚き動けずに居た私におついちは悪戯っぽく笑って礼を述べた。
「フレーバー系の煙草って微妙なものが多いけど、これはちゃんと煙草の味するんだね」
深く吸い、煙草を味わうおついちの言葉に私は慌てて咥えていた煙草を手に取った。
「あ、う、うん。バニラの香りで美味しいでしょ?」
「うん、僕は好きだけどやっぱり女性用のはあっと言う間だね。吸い殻いい?・・・夕飯はオムライスにでもしようか。適当に戻って来てね」
そう言っておついちは煙草の火種を私が持っていた携帯灰皿に押し付け、笑顔で家の中へと戻って行った。
【NEXT】
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アルバ - コメント有難うございます!殆ど自己満足みたいな文章で申し訳ない感じですが、そう言って頂けると嬉しいです!また温かいお言葉有難うございます( ´ ▽ ` )毎日猛暑ですが、ななしのゴンベイさんもお体に気を付けて下さいませ。 (2018年7月18日 23時) (レス) id: 5ec2af47b2 (このIDを非表示/違反報告)
ななしのゴンベイ(プロフ) - 確りとした世界観と、読みごたえある文章に惚れ込みました。日々の癒しとして、これからも愛読させていただきます。日差しが厳しくなって参りましたが、お体には気をつけて執筆活動を楽しんでください。 (2018年7月18日 5時) (レス) id: 5d365d193a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アルバ | 作成日時:2018年6月19日 12時