【オリジナル】気紛れ投稿【ＳＳ集】 (ページ28)

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♀／社会人／恋愛気味ページ28

ツンと鼻の奥が痛くなり、吐いた息は白くなる。

指先は手足ともに感覚が鈍く、どんなに着込んでいても寒さを防げたことはない。

せめてどこかの店に入れば暖かいだろうが、今は通勤時間。

店に入ろうものなら遅刻は免れないし、
この時間からやっているのは２４Ｈのチェーン店くらい。
つまりは頑張るしかない。さむい。

ささやかなる抵抗のカイロはまだ冷えていて、使えない。

コンビニで買える手軽さが好きでいまだ使い捨てを愛用しているものの、
そろそろ充電式のカイロを購入するべきか真剣に悩んでいる。

環境への配慮もだが、電源をオン、オフできるのは最強案件だろうとしか思えない。

「Aさん、はざーっす」

「…おはよう。朝から元気だね」

ハンバーガーチェーン店の大きな紙袋を抱え、食べ歩いている後輩。
マフラーや手袋といった防寒具はなく、着ている上着もぱっと見では薄そう。

自分と対照的に見える恰好。
見ているこっちが寒くないかと聞きたくなるほど。

「Aさんも食べますか？新作らしいんですよこのチョコレートパイ」

「せめて会社で貰いたい。寒いからここで肌を出させないでほしい」

がさがさと紙袋から物を取り出そうとした後輩を拒否する。

いつもなら貰えるものは貰う精神でこれでもか！というくらい喜んで貰っていくのだが、
それも出来ないほど寒い。とりあえず寒い。

「そういえばAさんって寒がりでしたっけ」

いま自分に効果音をつけられるのなら「もふ」の二文字だろう。
もちろん平仮名だ。

やっとうっすら温かみを生み出したカイロを手放してなるか、と両手で揉むように握る。

会社まであと５分ぐらいだろうか。

いつもなら短く感じる距離が、毎年この時期だけはとても長く感じる。

「車での通勤しないんですか？」

「毎朝温めるのも時間かかるのと、このご時世の燃料代の高さと税金の高さを考えると
大人しく徒歩を選ぶしかなかったんだけど、すこぶる寒い」

「たしかに」

ふっと笑う彼がいつもより幼そうに見えた。
こいつ、こういう表情をすると幼く見えるんだな、と思う。

「Aさんが徒歩でよかった」
決して大きくはないその声に視線を彼へと向ける。

「一緒に出勤できるの嬉しいです」
顔が赤くなっていく気がした。

マフラーだけでは隠れない