勝負2 ページ8
伊野尾先生サイド
涼介の進行の速さは、異常だった。
侑李の後を追ったとしか、考えられなかった。
――僕たちね、痛みがシンクロすることがあるんだ。
侑李がそんな話をしたのは、いつだっただろうか。
双子の体調のシンクロというのは、確かに存在する。
考えたくはなかったけれど、亡くなるタイミングにも関係あったんじゃないかな、なんて考えてしまう。
涼介のいた無菌室には、何日も経たないうちに、また新しい患者が入ってくる。
だから、今部屋にある漫画などは、全て片づけなければならなかった。
「先生も来られますか?」と、長い間涼介と侑李を見てきた看護師に誘われて無菌室に来ると、あれだけの存在感を放っていた機械はもうすっかりなくなっていた。
空っぽ。その言葉がぴったりだった。
「私たち、ナースステーションに戻るので、終わったら呼んでください」
その気遣いに感謝して、彼女たちが外に出るのを見送る。
こんなことは普段ないので、何からすれば良いのかわからない。
なんとなく、ベッドの横まで歩いていた。
「涼介」と名前を呼んだら、部屋の奥から出てきて「ベッドにいなくてビックリしたでしょ?」なんて笑ってくれそうな気がした。
漫画の整理をしようとベッドから離れたとき、ごみ箱の中に丸められた紙があることに気づいた。
くしゃっと丸める力さえもうなかったのだろう、ごみ箱から取り出すと、その紙は勝手に広がってきた。
シワを伸ばすように何度もこする。
“ゆうりへ”
なんだか、嫌な予感がした。
ゆうりへ。
ゆうりには、かきたいことが いっぱいあるから、
何からいえばいいのか まよっちゃいます。
がっこう、たのしい?
ちっちゃいときから、ずっといきたかったばしょだから、
がっこうのあとにきてくれるゆうりは、たのしそうです。
おべんきょうも、さっかーも、すごくがんばってるね。
ゆうりは じまんのおとうとです。
大すきな あいぼうです。
ずっとだまってたけど、あこがれのひとです。
でも、おれは、ぜんぶダメだね。
ひとりにするなんて、さいていだね。
こんなにいちゃんで ごめんね。
でも、ゆうりには、なかまがたくさんいます。
おともだちも、せんせいたちも。
こどくでは、ないからね。
まだまだかきたいこと、いっぱいあります。
でも、ぜんぶかくとつかれちゃうから、すこしだけ。
ゆうりなら、かかなくても かんじとってくれると おもっています。
ペラっとめくって裏面を見る。
138人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時