勝負２ ページ7
有岡先生サイド
伊野尾先生「涼介！ 涼介！ 大ちゃん、なんで連絡くれなかったの？」
有岡先生「あ、えっと……」
伊野ちゃんが、見たことないくらい怒っていた。
それでも冷静に、薬の量を調整する機械に手を伸ばし、投与量を増やそうとしていた。
有岡先生「伊野ちゃん！」
「何？」と返ってくる声は冷たい。
キッと睨むような視線。
伊野尾先生「なんだよ」
有岡先生「DNAR、俺は教えてないよ」
それ以上のことは、自分の口から言いたくなかった。
伊野ちゃんは、一瞬目を見開いて手を止めた。
でも、すぐにナースコールを押して、看護師にこの部屋に来るよう伝えていた。
伊野尾先生「殺すわけには、いかないんだよ！ 今ここで何もしないのは、涼介を見殺しにするのと同じだぞ！」
涼介は、ただ苦しそうに息をしているだけだった。
モニターが警告音を鳴らし、赤い光を点滅させる。
見殺し。
伊野ちゃんが言ったその言葉が、頭のなかでぐるぐると回っている。
反論なんて、できなかった。
だって、俺が涼介を見殺しにしようとしたのは事実だから。
ずっと繋いでいた涼介の手が離れた。
俺が離したんじゃなくて、涼介が離した。
涼介は、その手で心臓の辺りを押さえている。
俺、なんてことをしてしまったんだろう。
俺が、涼介を……。
視界が滲んでいく。泣いている場合じゃないのに。
泣いちゃダメだと思うほど、涙が溢れて落ちていく。
せめて、頭は撫で続けようと思った。
償いにはならないだろうけど、涼介は頭を撫でてほしいと言っていたから。
看護師が入ってきて、伊野ちゃんが指示を出している。
何もわからなかった。
手を止めないように、という意識と、電話しなかった罪に対する恐怖と後悔でいっぱいだった。
生きて。もうちょっとでもいいから、生きて。
もっと話したかった。
元気になったらまた車に乗せてやるって約束、守りたかった。
ずるいよ、先に逝くなんて。嫌だよ、こんな結末は。
俺は死なないって、言ったじゃないか。
絶対治すって、俺も移植成功させて戻ってくるって。
「大ちゃん、大ちゃんってば！」と、伊野ちゃんが叫んだ。
伊野ちゃんの目には、大粒の涙が溜まっていた。
看護師が皆、うつむいていた。
後ろに、心電図モニターに写る０という数字が見えた。
俺が涼介を殺したんだ。
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作者名：J | 作成日時：2022年10月29日 21時
