検索窓
今日:5 hit、昨日:14 hit、合計:20,461 hit

勝負2 ページ5

伊野尾先生サイド

有岡先生「伊野ちゃん」

泣いている俺を見て、大ちゃんは困ったように名前を呼んでくる。

「ごめん」と言うのが精一杯だった。

涼介「んぁ、あぃ、ぇ……」

涼介は、俺の手をきゅっと握る。

伊野尾先生「ん?」

聞き取れなくて聞き返したけれど、涼介は何も言ってくれなかった。

そのかわり、両手で掴んだ俺の手を動かして、自分の胸の辺りまで持ってくる。

涼介の目にはまた涙が溜まっていた。

涼介「て、あぇえ」

伊野尾先生「手、開ければいいの? これでいい?」

俺はできるだけ大きく手を開いた。

すると、涼介はそこに指で文字を書いていく。

“いってらっしゃい”

伊野尾先生「ありがとう。言ってくるね。またね」

絶対に、また、会おうね。

涼介は、俺の手を包み込んでから、そっと離した。

有岡先生「何かあったら連絡する」

伊野尾先生「ありがと、よろしくね」

大ちゃんは、勢いよくグーサインを出した。

それを確認してから、俺はオペ室へと走った。




薮先生「ごめんな、本当は、呼びたくなかった」

危ない状態から抜け出したとき、薮が言った。

伊野尾先生「いや、謝ることないよ。来てわかった。ギリギリまで電話しないでくれてたんだろうなって。俺のほうこそ、ごめん。お疲れ様」

薮先生「涼介のところ、戻ってもいいよ?」

伊野尾先生「ううん、最後までやるよ」

医学部時代、縫合のテストでさえ「ムズいよ! できるわけないよ!」と言っていた俺たちが、話しながらできるくらいまで成長したと考えると、なかなか長い年月が経ったなと思う。

薮先生「うまく、いってるか?」

おそらく、侑李の嘘のこと。

伊野尾先生「うん。ボロは出してないよ。大ちゃんもね、ちゃんと演技してくれてる」

薮先生「そっか。なら良かった、のかな。大ちゃんも、成長したってことだね」

ある患者さんが亡くなって、自分より幼い子供の死に絶えられず、小児科医をやめた大ちゃん。

伊野尾先生「ここは、たくさんの人が亡くなる場所だから、多少は慣れたかな。でも、なんか、隠してるだけな気がするなぁ」

無理矢理蓋をしているような感じ。

薮先生「支えてあげないとだね」

大ちゃんの、愛嬌たっぷりの笑顔が浮かぶ。

伊野尾先生「そうだね。あの、これからは、もっと電話してくれていいから」

薮先生「急に何言ってんの。涼介と話すのだっておまえの仕事だからな」

こんなこと言ってくれる同期って、素敵でしょ?

勝負2→←勝負2



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (27 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
138人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。