勝負2 ページ16
伊野尾先生サイド
涼介「俺そんなこと言ったっけ？ 思い出せない」
思いがけない言葉。
伊野尾先生「ほんとのこと言ってくれていいんだよ？」
きっと、この子はまた嘘をついているのだろうと思った。
昔からずっと「大丈夫だよ」って嘘をつく優しい子だったから。
それに慣れて、こちらが見破れないほどの演技ができてしまうような子だったから。
あるいは、無意識のうちに、俺が夢の中の涼介を操ってそう言わせているのかもしれない。
だって、
あんな裏切りを、覚えていないわけがないじゃないか。
涼介「ほんとほんと。頭おかしかったのかなぁ。え、俺そんなこと言ったかなぁ……」
あまりにも自然に言うから、こっちもわからなくなる。
ずっと不思議そうに涼介を見つめていた侑李が、口を開いた。
侑李「伊野ちゃん先生がオペに行ったことは覚えてるの？」
涼介「うん、なんとなくだけどね」
侑李「じゃあ、僕は、涼介が行かないでって言うとは思わない」
それが、涼介のいちばんの理解者の出した答えだった。
「先生聞き間違えたんじゃない？」と付け足した侑李に、「確かに、はっきりとは聞こえなかったんだけど……」と返すと、侑李は唇に手を当てて「んー」と考え始めた。
そんな様子を、涼介はにっこり笑って見ていた。
久しぶりに見た、涼介の心から幸せそうな笑顔。
涼介「侑李、探偵さんみたいで可愛いね」
本人には聞こえないくらい小さな声で俺に向かってささやいた。
俺から言わせてもらえば、昔から２人とも可愛いよ。
侑李「ねぇ、僕わかったかも」
涼介「おーすごい。さすがだね」
そういえば、君はよく頭のキレる子だったね。
まだ全然時間が経っていないのに、侑李の顔には自信が満ちている。
侑李「先生さ、そのとき泣いてたんじゃない？」
あの時、
泣かないようにとは思っていたんだけど、制御できなくて。
涼介「うん、先生泣いてたよ」
侑李「やっぱり『行かないで』じゃなかったんだよ」
ゴクン、と唾を飲み込む音が喉から響いてやけに大きく聞こえた。
侑李「『泣かないで』 涼介はそう言ったんじゃない？」
続く
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作者名：J | 作成日時：2022年10月29日 21時
