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勝負2 ページ15

伊野尾先生サイド

変な夢を見ていた。

真っ黒な空間に、俺だけ1人、ポツンと浮いている。

明晰夢とか言ったっけ……俺は、これが夢だって自覚している。

メタバースみたいに、夢の中の自分を動かすこともできた。

「伊野尾先生、おーい、こっち向いてぇ」

あぁそうか、この夢を見させた犯人は君だったのか。

「伊野ちゃんせんせっ」

もう1つ、聞き慣れた声が俺を呼んでいた。

伊野尾先生「どうした、涼介、侑李」

震えそうな声をおさえながら、いつものように返事をして振り向く。

夢の中で泣いても、何も変わらないから。

ふたりは、満面の笑みを浮かべて、大きく手を振っていた。

病院着姿の涼介と、ジャージ姿の侑李。

侑李が涼介の手を取ってひっぱり、こちらに駆け寄ってくる。

侑李「先生、なんて顔してんの? 先生がそんな顔だとみんな心配しちゃうじゃん」

涼介「そうだよ、先生が思ってるより、患者はそういうの敏感だからね」

にっこり笑顔で、生きていた頃と同じように話している二人。

伊野尾先生「先生は、二人がいなくなって寂しいの」

強がっている余裕なんてなかった。

涙をこらえるので精一杯だった。

涼介「ごめんね、先生。でも、笑っててほしくて。だからね、会いに来たんだよ」

「ねー」と二人が顔を見合わせて言う。

息ぴったりで、可愛くてたまらないこの双子は、俺だけを苦しみの中に残して幸せそうであった。

伊野尾先生「会えてよかったよ、ありがとね」

俺がこんな調子だから二人はなんだかやりづらそうにしているけれど、それもまた愛おしくて仕方ない。

伝えたいことがたくさんあった。

そして、なんとなくではあるが、この夢が俺たちの"最後"のような気がしていた。

伊野尾先生「涼介。俺、謝らないといけないことがある」

これを逃したら、涼介との楽しかった記憶は消えて、後悔だけが残ってしまうと思った。

涼介はしばらくの間きょとんとして俺を見つめてから、「なぁに」とやわらかく聞いてくれた。

伊野尾先生「涼介は行かないでって言ってくれたのに、俺、聞き取れなくて、オペに行っちゃって。ごめんなさい!」

思い切り頭を下げた。

涼介も侑李も何も言わなくて、不安になって顔を上げると、涼介はきょとん顔のまま。



「俺そんなこと言ったっけ? 思い出せない」

涼介の口から出たのは、思いがけない言葉だった。

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作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時

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