勝負2 ページ14
伊野尾先生サイド
有岡先生「うん、わかってるよ。わかってる、大丈夫」
伊野尾先生「うん、それだけ。大ちゃんなら、何やっても上手くいくよ」
有岡先生「そうだといいなって思ってる」
大ちゃんは、上半身を起こした。
伊野尾先生「大丈夫?」
有岡先生「ん、座ってても一緒だから」
俺は大ちゃんの隣に座って、もし倒れてもすぐに反応できるよう、大ちゃんの背中に手を回した。
伊野尾先生「涼介の部屋にあったもの、全部俺が持ってる。俺の机の近くに積み上げてあるから、いつでも見てもいいよ?」
有岡先生「んー、伊野ちゃんが時間あるとき、一緒に見ようよ」
2人がいいよ、と大ちゃんは付け足した。
可愛い子め。
伊野尾先生「わかったよ。2人でね。じゃあ、早く治して」
有岡先生「うん、治す」
伊野尾先生「もう雨の日に傘なしで屋上行ったりしないでね」
有岡先生「うん、もうしない。心配しないでいいよ」
大ちゃんの頭を撫でたら、恥ずかしそうに耳と首まで真っ赤にしてうつむいた。
涼介も侑李も、成長する度に、頭を撫でたり手を繋いだりすることが恥ずかしいと言うようになったけど。
それでも、強引にしたときは顔を真っ赤にしながら我慢してくれたな。
素敵な思い出が、溢れるくらいいっぱいある。
大ちゃんを強くしたのは、彼らとの思い出だろう。
有岡先生「伊野ちゃんも、俺に聞いてほしいことあったら、言ってくれていいからね。たくさん助けてもらったから」
本当に、たくましくなった。
伊野尾先生「大丈夫だよ、俺は」
大ちゃんが、「そっかぁ。そうだよね。ごめん、変なこと言った」と明るく答えたのを聞いて、胸が痛んだ。
引っ掛かることが、ひとつだけあった。
――涼介「んぁ、あぃ、ぇ……」
聞き取れなかったこの言葉。
ふとしたときに、気づいてしまった。
ピッタリと当てはまってしまった。
行かないで。
そのあと涼介は俺の手に「いってらっしゃい」と書いたけれど、本当は行かないでほしかったんじゃないかって。
それが、我慢をしてばかりの人生の、最期のわがままだったんじゃないかって。
最期まで、我慢させてしまった。
ちょっと考えたら、わかったはずなのに。
時間にばかり気を取られていて、必要以上に焦っていて。
もしかしたら、大ちゃんは気づいていたのかな。
大ちゃんなら、聞き取れていたのかな。
こんなこと、誰にも言えない。
誰かに言っても、どうにもならないとわかっているから。
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作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時