勝負2 ページ12
有岡先生サイド
待ってて、なんて言われても……。
俺はもっと涼介と話したいし、幻でくらい俺の自由にさせてほしいのに。
涼介「先生、こっち見て」
きれいな目を見つめれば、涼介は満足そうに笑って。
涼介「またね、有岡せんせ……」
さっきまでの笑顔は、一瞬で泣き顔に変わっていた。
有岡先生「泣くなよ、涼介。待ってるから。な? みんな、いつまでも、ここで待ってるから」
涼介「ん、ありがと。また、会おうね」
涼介だって、別れが苦しいんだ。
俺が、早く覚悟を決めないと。
有岡先生「うん、また会おう。じゃあね」
涼介は笑おうとしたけれど、失敗して、唇が震えていた。
瞬きをすれば、涼介はもういなかった。
君らしいね、その可愛い失敗。
涼介がもたれていた金属の柵に、そっと手をかける。
「涼介!」と叫んでいた。
温かかったのだ、
雨に打たれ続けて温度を奪われているはずの金属が。
確かめるように、温もりを独り占めするように、柵を何度もきつく握った。
幻覚なんかじゃなかった。
『俺、最後のお願い聞いてもらえたの嬉しかったよ』
優しい涼介のことだから本心かはわからないけれど、涼介の口からこの言葉を聞けたのが、何よりも嬉しかった。
自然と、目から涙が溢れてきた。
誰もいない屋上で、嗚咽を漏らしながら泣いていた。
パッと体に打ち付けていた雨が止まる。
伊野尾先生「ばーか、びしょ濡れじゃん」
後ろを見れば、伊野ちゃんが傘を俺に被せてくれていた。
有岡先生「いのちゃんっ」
伊野尾先生「泣けた? 良かった。もう、みんな心配してるんだからね」
伊野ちゃんは白衣の内側からタオルを出して、俺の頭をわしゃわしゃと拭いてくれる。
タオルの柔らかい感覚と、伊野ちゃんの力加減が気持ち良かった。
有岡先生「ありがと。伊野ちゃん、涼介にね、本を見るように言われたんだ。だから、一緒に見よ?」
伊野尾先生「その前に、体温かくしないとダメ。お風呂入って、着替えて、何か飲んだり食べたりして、それからね。もう、大ちゃん子どもみたい」
有岡先生「子どもじゃないもん」
伊野尾先生「んふふ、伊野ちゃんはね、大ちゃんが戻ってきてくれて嬉しいですよ。何かいいことあったの?」
有岡先生「んー、秘密。伊野ちゃんには教えてあげない」
伊野尾先生「えー、いじわるぅ」
俺と涼介だけの秘密にしよう。
そして、一生忘れないようにしよう。
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作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時