検索窓
今日:8 hit、昨日:14 hit、合計:20,464 hit

勝負2 ページ12

有岡先生サイド

待ってて、なんて言われても……。

俺はもっと涼介と話したいし、幻でくらい俺の自由にさせてほしいのに。

涼介「先生、こっち見て」

きれいな目を見つめれば、涼介は満足そうに笑って。

涼介「またね、有岡せんせ……」

さっきまでの笑顔は、一瞬で泣き顔に変わっていた。

有岡先生「泣くなよ、涼介。待ってるから。な? みんな、いつまでも、ここで待ってるから」

涼介「ん、ありがと。また、会おうね」

涼介だって、別れが苦しいんだ。

俺が、早く覚悟を決めないと。

有岡先生「うん、また会おう。じゃあね」

涼介は笑おうとしたけれど、失敗して、唇が震えていた。

瞬きをすれば、涼介はもういなかった。

君らしいね、その可愛い失敗。

涼介がもたれていた金属の柵に、そっと手をかける。

「涼介!」と叫んでいた。

温かかったのだ、

雨に打たれ続けて温度を奪われているはずの金属が。

確かめるように、温もりを独り占めするように、柵を何度もきつく握った。


幻覚なんかじゃなかった。


『俺、最後のお願い聞いてもらえたの嬉しかったよ』

優しい涼介のことだから本心かはわからないけれど、涼介の口からこの言葉を聞けたのが、何よりも嬉しかった。

自然と、目から涙が溢れてきた。

誰もいない屋上で、嗚咽を漏らしながら泣いていた。

パッと体に打ち付けていた雨が止まる。

伊野尾先生「ばーか、びしょ濡れじゃん」

後ろを見れば、伊野ちゃんが傘を俺に被せてくれていた。

有岡先生「いのちゃんっ」

伊野尾先生「泣けた? 良かった。もう、みんな心配してるんだからね」

伊野ちゃんは白衣の内側からタオルを出して、俺の頭をわしゃわしゃと拭いてくれる。

タオルの柔らかい感覚と、伊野ちゃんの力加減が気持ち良かった。

有岡先生「ありがと。伊野ちゃん、涼介にね、本を見るように言われたんだ。だから、一緒に見よ?」

伊野尾先生「その前に、体温かくしないとダメ。お風呂入って、着替えて、何か飲んだり食べたりして、それからね。もう、大ちゃん子どもみたい」

有岡先生「子どもじゃないもん」

伊野尾先生「んふふ、伊野ちゃんはね、大ちゃんが戻ってきてくれて嬉しいですよ。何かいいことあったの?」

有岡先生「んー、秘密。伊野ちゃんには教えてあげない」

伊野尾先生「えー、いじわるぅ」

俺と涼介だけの秘密にしよう。

そして、一生忘れないようにしよう。

勝負2→←勝負2



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (27 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
138人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。