勝負２ ページ11
有岡先生サイド
何も考えられなかった。
涙も出てこなくて、どうやってこの悲しみから逃げたら良いのかわからない。
いつの間にか、屋上に来ていた。
吹いている風も、叩きつけるような雨も、気にならなかった。
涼介と、飽きるほど見てきた景色。
一人で見ても、つまらないや。
このまま死んでも別にそれでいいな、なんて思っていたら、
「有岡先生」
隣を見れば、涼介がいた。
まだ元気だった頃の涼介。
ニコッと笑って、また「有岡先生！」と呼んでくる。
俺が作り出した幻覚であることは、ちゃんと理解していた。
幻覚でもいいと思った。
何でもいいから、涼介と話している気分になりたかった。
有岡先生「何？ 涼介」
涼介「先生、雨降ってるよ？」
有岡先生「うん、知ってる」
涼介「知ってるって……。先生、バカだねぇ」
有岡先生「うるせぇよ」
ニヤッと笑って俺をいじってくる涼介。
俺がツッコミを入れて、二人で笑い合う。
あの頃に戻ったみたいだった。
涼介「なんでこんなところにいるの？」
有岡先生「わかんないけど、ここに来てたんだ」
涼介「ふーん、俺のせい？」
有岡先生「そうかもな」
涼介「え、マジ？ ごめん。俺、んー、どうしよ」
パン、と音を立てて両手を胸の前で合わせてから、「んーっと」と言って考え込んだ。
有岡先生「嘘だよ、嘘。涼介のせいじゃないから」
涼介「騙したの？ ひどぉい」
有岡先生「俺、涼介のその顔大好きだから」
そう言えば、今度は顔だけじゃなくて耳と首まで真っ赤に染める。
ニコッていう笑顔も、ニヤッていう悪い笑顔も、照れてる顔も。
涼介の全部が、大好きだった。
そして、今目の前で起きているかのように、鮮明に思い出せる。
涼介「先生は、やっぱり、子供が死ぬの嫌？」
有岡先生「嫌だよ」
涼介「そうだよね。でも、それって先生が優しいからだよ。だから、俺はそんな有岡先生も大好き」
有岡先生「涼介？」
涼介「先生。俺、最後のお願い聞いてもらえたの嬉しかったよ。勝手に悪く思い込んで、自分のこと傷つけるなんて、俺が許さないからね。来ちゃだめだからね。わかった？」
俺の目をじっと見つめる涼介の瞳が、キランと輝いた。
有岡先生「わかった」
涼介「うん、いい子。じゃあ、俺もう帰るね」
有岡先生「え、待ってよ」
涼介「あ、本、見てね。ぜーったい忘れないでね。これで終わりじゃないよ、いつかまた会いに来るから。だから、楽しみに待ってて」
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作者名：J | 作成日時：2022年10月29日 21時
