勝負2 ページ2
涼介サイド
有岡先生「涼介、伊野ちゃんあとちょっとで来るからな」
先生が優しく微笑む。
大丈夫、まだ見えてるよ。
口の中も喉も痛いから声は出したくないけれど、先生を目で追うことはできる。
小さくではあるけれど、頷くことだってできる。
有岡先生「俺と一緒に、いい子で待ってよーな」
懐かしいセリフ。
俺、もう子供じゃないんだけどな。
先生が俺の手を握ったのがわかった。
大丈夫、まだ感覚はある。
それを伝えたくて、先生の手をなぞるように親指を動かした。
有岡先生「涼介、手、冷たいね」
そう言って、俺の手を温めるように両手で包み込んでくれる。
ううん、違うよ。先生が温かいの。
昔からそうだったじゃん。
子供の俺と侑李より、体温高かったでしょ?
涼介「ぇん、ぃあ、ぁ……かぃ、よ」
痛みを我慢して声に出したけど、大量にできた口内炎のせいで口が動きづらくて、発音できない。
でも、
有岡先生「え、そうかな? 俺があったかいの?」
なんて、まるではっきりと聞こえたみたいに、普通に返された。
視界が滲んでいく。
泣いたら辛いだけって、わかってるのに。
有岡先生「涼介、泣かないよ」
うん、わかってる。
すごく嬉しかったんだ。
先生が理解してくれたこと。
先生が笑ってくれること。
先生に出会えたこと。
有岡先生「伊野ちゃん来ちゃうから、ね? 泣かないよ」
先生が、その温かい手で、目の端から溢れた涙をぬぐってくれる。
俺は、贅沢な人だね。
こんなにも大好きな人を、独り占めできる。
体は痛いし、苦しいし、思い通りに動かせなくて怖くなるけど。
毎日、できないことが増えていくばかりだけど。
大丈夫。
だって、まだ幸せだと思えてる。
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作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時