勝負2 ページ1
伊野尾先生side
涼介「せん、せ……ごめん」
伊野尾先生「謝ることないよ」
夜の2時。
ナースコールとは別に、大ちゃんから電話で連絡が来た。
『涼介、具合悪そう。今から来られる?』
もともと家には帰らず病院で夜を明かそうと思っていたから、連絡から五分もたたないうちに、俺は涼介の病室に来ていた。
浅く速い呼吸。
額に浮かんだ汗。
想像していたよりも、よっぽどひどかった。
有岡先生「俺が来たら、もうこんな感じだった。悪化はしていない」
大ちゃんは涼介の手を握っていた。
涼介が少しでも呼吸しやすくなるように、気道を確保しやすい姿勢に変えてくれたのも、大ちゃんなのだろう。
伊野尾先生「つらかっただろ。我慢してた?」
涼介は、ごめん……と言う。
昔からナースコールを押すのに抵抗がある子だった。
大ちゃんが様子を見に来なければ、どうなっていたことか……考えるだけでゾッとする。
伊野尾先生「涼介、あとちょっとで呼吸楽になるからな」
呼吸を助けてくれるフェイスマスクを装着した。
マスク内が頻繁に白くくもる。
涼介「俺、ずっと、このままなの?」
マスクを介して、ほとんど空気みたいな声が聞こえてきた。
伊野尾先生「呼吸が楽になるまでね」
涼介は目だけを動かして、大ちゃんの方を見た。
有岡先生「つらいの嫌だろ? 大丈夫だから。安心して寝な」
大ちゃんは空いている方の手で涼介の頭をぽんぽんと撫でた。
優しく柔らかい、でも、作り物の笑顔で。
涼介は小さくうなずいてから、
「もう、行って、いいよ?」と言った。
大ちゃんと2人で目を合わせる。
有岡先生「俺が見てるよ。伊野ちゃんは明日も朝早いでしょ?」
それは大ちゃんもじゃん、と反論したいけど、涼介が見ている前で話を続けるのも申し訳ない。
伊野尾先生「ありがと。何かあったらまた呼んでね。俺ずっと病院にいるから」
有岡先生「うん」
伊野尾先生「涼介、またな。あんまり我慢するなよ?」
最後に涼介の頭を1回撫でて、俺は病室を出た。
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作者名:J | 作成日時:2022年10月29日 21時