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母親の記憶(ここな様 リクエストです) ページ22

涼介サイド

屋上に向かって、必死に走った。

ただ、外の空気が吸いたかった。

そうすれば、心が落ち着くような気がしたから。

心臓がバクバクと激しく鼓動を刻んでいることも、血液が全身をものすごい勢いで駆け巡っているのも、気にならなかった。

むしろ、気持ち良いとさえ感じた。

いつもはエレベーターを使っているけど、今日は階段を駆け上がった。

足が悲鳴をあげていたけど、それに気づかないふりをして、走り続けた。

屋上のドアは、少しだけ開いていた。

誰か、いる。

1度ドアノブを掴んだ手を、離した。

そのとき、ドアがこっちに開いてきた。

涼介「いの……せんせ……」

伊野尾先生「おっ、涼介。どしたー?」

なんで先生なんだよ。

俺は、逃げるように階段をダッシュで下りていく。

でも、エレベーターばかり使っている俺が、緊急で呼ばれることが多く、走ることの多い先生に勝てるわけがなかった。

伊野尾先生は、一気に2、3段飛び越して、俺の前に立った。

そして、俺を抱きしめた。

伊野尾先生「涼介! 何があった?」

伊野尾先生が、母さんの姿に重なった。

しかも、優しかった頃の母さんに。

涼介「いやっ、……やめっ……て、よ」

頭の中に映し出された母さんが、俺の頭を撫でた。

息がうまく吸えない。

肩を上げ下げして、必死に酸素をむさぼろうとする。

伊野尾先生「涼介! ちょっと待ってろ」

伊野尾先生は、俺をお姫様だっこして、階段を1段飛ばしで下りていく。

涼介「やっ……いっ、……やだ……、やめっ……て」

俺は足をバタバタさせて、抵抗していた。

でも、伊野尾先生はガシッと俺を抱きしめた。

しばらくは抵抗していたけど、やがて抵抗することに疲れたから、おとなしくする。

おとなしくするというよりは、怯えていたの方があっているかもしれない。

俺は心臓に手を当てて、丸まっていた。

伊野尾先生は空いていた病室に入って、俺は、ベッドに寝かされた。

伊野尾先生に呼ばれていたのか、そこには、有岡先生がいた。

有岡先生「りょーすけー? 深呼吸できるかな? 俺に合わせて深呼吸ね」

有岡先生とそう言って、肩を上げ下げして分かりやすく深呼吸をする。

俺も、それに合わせて呼吸をした。

伊野尾先生「そう、そのままね。大丈夫だから、落ち着いてね」

しばらく繰り返していると、上手に呼吸できるようになった。

有岡先生「落ち着いてきたね。もうやめていいよ」

部屋に3人だけの空間に、緊張が高まった。

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作者名:J | 作成日時:2020年3月15日 20時

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