色戀、召しませ。 (ページ47)

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「Aは、あれ乗ってくか」

隆二さんが手を挙げてタクシーを一台停める。

ドアを開けたタクシーの前で、私はどうして良いか分からなくなった。

いきなり呼び捨てされたこと、このまま一人で帰りたくない気持ち。

頭の中がグチャグチャだった。

「一緒に……………」

その一言が精一杯。

「…………うん」

二人で乗ったタクシーのデジタル時計がもうすぐ10時になろうとしていた。

隆二さんは、あのCD屋さんの名前を口にして車は走り出す。

「…………あのさ」

彼の言葉を遮るように私の携帯から通知音が鳴った。

「すみません、誰だろ………あ、お母さん」

「え！？」

「え！？」

「お母さん………の、形見なんだよね？それ」

指輪を指されて私は“あっ”と気付いた。

「育ててくれたお母さんからのLINE。おやすみーって」

「なんだー！めっちゃビックリした」

「あの世からのLINE？」

「いやいやいや」

運転手さんが肩を揺らしてる。

隆二さんは、それってどういうこと？なんて聞かなかった。

聞かなかったけど「仲良しなんだね」と言ってくれた。

「うん。仲良しです。9歳から育ててもらって大学まで出してもらって……一回り上の姉も居るんですよー。血は繋がってなくても、みんな私のこと大事にしてくれました」

これは、賭けだった。

“あの彼女、養子なんでしょ？”

その一言が終わりを早めた恋を私は拭いきれてないのかもしれない。

だから、賭けた。同じ轍を踏みたくなくて。

「そんな感じするもん」

「え？」

「明るい家で育った人って感じ」

「本当に？」

「うん」

ふったサイコロは静かに静かに私の胸に落ちてきた。

本心は分からないけど、隆二さんは私を否定しなかった。

もう、あの橋に、ふらっと行くことはないだろう。