色戀、召しませ。 (ページ17)

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急に居心地が悪くなって身を捩った私の隣に、誰かが勢いよく座ってきて思わず身体を仰け反らせた。

「それマルタンのコートでしょ？」

私が余程ギョッとした顔をしていたのか、その人は「えっ」と頬をひきつらせた。

「マルタンの…………違う？」

あ……………臣くんだ。

「マルタン…………です」

「でしょ！？」

「間違ったかと思ったわー」と臣くんは私の肩を叩いた。

……………この人はきっと、悪い人じゃない。

嫌な人でもない。

でも、苦手な人。

もう話しかけないでの意味を込めて、私は顔を背けた。

背けた先に隆二さんが誰かと喋ってるのが見えて

早く、戻ってきてくれないかなと彼を見つめ続けた。

一瞬、彼が私をチラッと見て確かに目が合った。

でも彼はすぐにそらした。

キーンと耳鳴りがする。

何故、こんな心細い場所で私は一人にされてるんだろう。

……………私を誘ったのはあなたでしょ。

慎重に床につま先を付けて私はスツールを滑るようにおりた。

「トイレ？」

臣くんの問い掛けに私は頷いて、わざと人垣の中を歩いて出口に向かう。

緑のうろこ屋根の犬小屋に帰ろう。

「どこか行かれますか？」

受付の人が、今度は柔らかく尋ねてきた。

「もう一度入られるときは」

「帰ります」

こういう場所で途中で帰る女が珍しいのか、受付の人は口を開けて私を見ていた。