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一度落ち着こうと深く息を吸うが、
肺に入る空気は熱くて
ますます息が苦しくなるだけだった。
「ッ……歌仙は、…間違ってる、
私はそんなに優しくない………」
「君にそのつもりがなくても、
僕にとってそれは、確かに優しさだったんだ。
嬉しかった。安心した。
君のおかげで戦う理由が出来たんだ。
僕は結果救われた。
たとえそれが君の欲だったとしても、
優しい人になりたいと思ってかけたその言葉は
汚くなんかない
それはどうやったって、優しさでできてるんだから」
「好きなんだ
そんな君を心から愛してる」
きっと私は、ずっと待っていたんだ。
優しくなりたいという私を、肯定してくれる言葉を。ずっと。
自分でさえ否定した自分を、
汚いと、惨めだと、蔑み罵ってきた“偽りのない自分”を包んでくれる『本当の優しさ』を
私はずっと、待っていたんだ
だから思ってしまったんだ。
願ってしまったんだ。
ソレを叶えたいのなら、ソレに気づいてはいけないのに。
私を好きだと、愛しているといってくれる彼と
『ずっと一緒に居たい、
彼と“生きていきたい”』
そう願ってしまった。
それに気付いた瞬間、体の周りが淡い光を放ち始めた。
指先からほろほろと光の粒が落ち
あぁ、こうやって全てが無くなるのかと
ふわふわし始める頭の片隅でそう思った。
「主、それはもしかして……………」
「そう、みたいだね………
酷いよね、政府も
………これから、もっと2人で笑って
こうやって綺麗な物を観ていられるんだと思ってた。
愛された分を返していこうって思ってた。
けど、もう終わりなんだって」
出来ないんだって
そう言った私の声は震えていた。
もうさっきまで感じていた暑さも、
私を抱きしめる歌仙の温もりさえも感じられなくなっていた。
体が少しずつ光の粒となり
空へきらきらと舞っていく。
「歌仙、私戻るよ
輪廻転生の輪に。
いつか私の番が来て、歌仙が守った正史のある世界に生まれ落ちるよ
だから、だから今日を最後にしないで……!!」
「あぁ、勿論だよ
必ず、君の元へ帰ると
主の唯一の刀であるこの歌仙兼定が誓おう。
この戦いを終わらせ、刀としての役目を果たしたら直ぐに君の元へ帰るよ」
暑さも、彼が触れる感覚も分からない私が最後に感じられたのは“愛しい”という感情だった。
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作者名:赤羽美亜 | 作成日時:2018年11月4日 21時