空席 ページ9
「オマエ、引っ越せ。」
カノジョの突然の訪問を何気なくミツにこぼすと、いつもより真面目な顔でそう言った。
「は?なんでそうなるの?」
移動の車の中には、オレとミツだけで、窓の外に目を向けると銀杏並木が色づき始めていた。
「ヤバイだろ、それ。どう考えても。」
「大丈夫だよ。キッパリ言ったし。」
ポケットから何気なく取り出したスマホが不在着信を知らせて、小さなランプを点滅させていた。
「いやいや、引っ越せって。」
「大袈裟。」
スマホ画面に指先を滑らせると、数件の着信は、全部『チカ』。
ため息をついて、思わずミツに画面を見せると『ほらっ!!!』って、大声をあげた。
「これ、スマホも変えた方がイイヤツじゃね?」
「……だろーな。」
離れるって決めたのは、向こうだし、もう、オレだって、戻る気は無い。これ以上、気を持たせるようなことは、出来ないし、いつまでも、オレを引きずっても欲しくなかった。
チカとオレの間に、見えない1本の線を引いて、近づきすぎた距離を遠ざけるには、丁度いいのかもしれない。
「……引っ越すわ。」
「そうしろ。」
窓の外に視線を向けたまま、呟いた言葉は、本当の別れを意味して、胸の奥に、小さな痛みが走った。
「その方が、ニカも、カノジョも、前に進める。」
ミツが言った言葉は、傷んだ心を少しだけ癒して、振り向きそうになる背中を押した。
「あーぁ、今の部屋、角部屋だし、気に入ってたのになぁ。」
狭い車内で伸びをするように腕を伸ばすと、当たり前に天井にぶつかって、八つ当たりみたいに、そのまま、手のひらで天井を力任せに押した。
「もっといい部屋に、引っ越せばいいだけの事だよ。」
それだけ言って、ミツは、イヤフォンを耳に入れて目を瞑った。
もっと、もっと……
そうやって、上を目指して、辿り着く場所は、オレが幸せを手に入れられる場所だろうか?
自分の理想とする幸せをみつけたカノジョを、そっと、元いた場所に戻して、オレの中にあった、小さな幸せは、また、空席になる。
見つけることも
手に入れることも
温めることも
オレ達には難しい
『恋』なんて席
消えてなくなればいいのに……
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植尾あい(プロフ) - ノンさん» はじめまして。キミ声、何度も読んでもらえたなんて嬉しいです。ニカ中毒だなんて!光栄です!私の言葉、気に入ってもらえましたか?よかった!これからも、のんびりですがキミ恋もよろしくお願いします(*^^*) (2017年4月25日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ノン - 初めてコメントさせてもらいます。キミ声にハマって、何度も読ませてもらって、何度も涙して、ニカ中毒になりました。(笑)ニカsideも楽しみに読ませてもらっています。楽しみがまた増えました。ありがとうございます。あいさんの言葉の表現、大好きです。 (2017年4月23日 23時) (レス) id: d6afd85c10 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナナさん» 実は、見つけてたんです(ノ∀`*)ンフフ♪ なんか、こういううっかりしてそうじゃない?(笑)まだまだ、距離を置いて慎重なニカが、この距離をどうしていくのか、楽しみにしていて下さい!バンザイ! (2017年3月29日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - きななさん» バンザーイ!二階堂くんにバンザーイ! (2017年3月29日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - カギ見つけてたんだ!探したはずのポッケに入ってたとか本当にやってそうだなー(笑)ってニヤニヤしちゃった(°▽°)いつから「ニカ」が「高嗣」として接して行くのかとか、楽しみで仕方ないっ!ばんざーーーーい!! (2017年3月27日 10時) (レス) id: 6cd6e0891b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2016年12月25日 22時