すべてはキミに恋するため

ニカの行動 ページ20

ーーー パタン


キミの向こうでドアの閉まる音がして、アンバランスな格好のキミが、丁寧に言葉を選びながら言った。


「あ…なんか、慌てているというか…。
お困りのような声が聞こえたので…。」


……マジ、恥ずい。


声がでかいのは、仕方ない。
仕方ないけど、聞かれていたと思うと恥ずかしい。


「えっ…あ、あぁ…。
実は、鍵…なくしちゃったみたいで…。」


でも、聞かれちゃったなら仕方ない。
正直に、理由を話すと、今度は、急に、張り切り出す。


「それは、困りましたね…。
あっ、管理会社に連絡とか…。
いや、鍵の110番的な所の方がいいのかな？」


あーーー、なるほど。
管理会社に連絡すればよかったのか……。


なんて、一瞬、流されかけて、でも、胸の奥でブレーキが音を立てた。




もしかして、気づかれたんじゃない？


もしかして、オレの事、知ってるんじゃない？


もしかして、ファンなんじゃない？




頭の中が、一気に、警戒サインでいっぱいになって、逃げ場のない状況に、どうすべきか焦る。




導き出した答えは、一番簡単な方法。




ーーー パチン




『ニカ』のスイッチをオンにして、一度、意識的に瞬きする。


一瞬遮られた視界が、ゆっくりと戻ると、そこから先は、別の世界。





キミとニカは、違う世界に生きてるから。



ここから先には、踏み込まないでね。





そういう思いを込めて、立ち上がりながら笑顔をつくる。


「あ、もしかして…。」


パンパンっとパンツに付いた埃を叩きながら、もう一度、キミの姿を眺めれば、少し警戒するように後ずさって、オレの様子をうかがってるから、逆に、一歩近づいて、右手を差し出した。


「はいっ！握手っ！」


一瞬、キョトンとした顔をして、それから差し出される右手。

大人っぽいピンクベージュのネイルには、主張しすぎない白い花が描かれていた。

細い指先を揃える様に、その手をギュッと握ると、柔らかくて優しい温もり。


「冷たっ！」


当たり前だけど、オレが温かさを感じたってことは、キミは、冷たさを感じたわけで、慌ててその手を離して視線を逸らす。


「あー、ごめんね。」


まだ、温かなキミの手の感触が残る手のひらを温めるように脚に擦り付けると、少しだけその感触は遠のく。

想像してた反応とはちょっと違ったけど、キョトン顔のキミが、さらに不思議そうな顔をしてオレを見るから、その目を見つめ返した。

勘違い→←ギャップ

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