11.「いつかまた必ず、どこかで」 ページ13
「お疲れ様です、さようならー!」
バイトというのは案外すぐに終わってしまうものだ。
もう夕方になっていて、夕勤の人が来ていた。
その人たちに挨拶して、足早に職場から離れる。
すっかり、真っ暗だ。
ところどころ星が見えていて、とびきり明るい星が三つほどみえていた。
あの星はアルタイルとベガ、それにデネブだろうか。
今はもう冬に近いが、夕方の早い時間ならまだ空に南中している。
高校在学中に学んだ星のことも受験生のときに志したことも未だ忘れられなくて、なんとなく星を見ることを避けていた。
もう叶わないんだし。
「……ただい…え、」
夕方5時45分。
自宅の引き戸を開けると、玄関を上がったところに黄色いパーカーを着た十四松がいて、どんぐりを広げて遊んでいた。
「…あ!!おかえりAー!…、どんぐりあげるっ!!」
びろびろに伸びた袖には7個のどんぐりがあって、私にあげるというのだ。
……。
「……え、Aどーしたの!!なんで俺の袖くるくるしてんのー?!」
「耳元で叫ばないでくれる?…邪魔だろうなって思っただけだから」
どんぐりを手に取り床に一度置いて、十四松の袖を捲る。
捲られるとは思ってなかったのか、口角を上げたまま首を傾げた。
「……俺、別に邪魔じゃないよ!!それにね、兄さんたちもトド松もよくくるくるしてくれるんだけどね!くるくるしてもすぐびろびろになるんだー!!!」
「……そ。……じゃあこれ、つけとくから外さないようにね。………、…どんぐり、貰っていいの」
十四松の手が完全に見えるところまで捲って、袖口のところをピン留めでそれぞれ何箇所か留める。
最初はまじまじとピン留めを凝視していた十四松だが、私の言葉に反応して、こんどは目一杯の笑顔になった。
「うん!!!貰って!!Aのために拾ってきた!!」
急にそんなこと言われても、素直に受け取れるわけないじゃないか。
「……、」
さっとどんぐりを拾って、階段へ急いだ。
すれ違う時の十四松はどこか寂しげで、それでも嬉しそうな顔もしていて、よく分からなかった。
不思議と怖くはなかった。
「あらA、お疲れ様。今日はハンバーグだけれど、どうする?」
階段へ行くには必ず台所の近くを通る。
ちょうどご飯の支度をしていたのだろう、お母さんが顔を出して私に尋ねてきた。
「……部屋で食べる。あっ手伝うよお母さん。待ってて」
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kuu - これいちいち歌の歌詞になってますね、 (2022年1月1日 12時) (レス) @page38 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
kuu - 面白いです、これからシリアスだったり恋愛がある、が楽しみです (2022年1月1日 10時) (レス) @page1 id: f964c54957 (このIDを非表示/違反報告)
あみ - 最高すぎます (2020年9月24日 2時) (レス) id: e43e7b87c6 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE!(心々) - なるべく早く更新してくださいっ……!……お願いです………………本当に楽しみすぎるのですよっ!! (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
偶数LOVE!(心々) - なんでこんなに文才があるのですか??これは絶対ず〜っと!過去最高1位ですねっ!!(納得です♪)どんな小説の中でも1番好きですっ!(本当に) 星なんかいも押したいけど、前も押したからムリだ……… (2019年9月7日 18時) (レス) id: 01d7da7a06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2015年11月26日 1時