12話 ページ36
信号が赤から青に変わった。
視線を助手席から進行方向へ向ける。
降谷は風見との会話を思い出しながら、アクセルを踏み込んだ。
『風見、悪い。今日はもう切り上げる。
判は明日の朝一…』
『降谷さんの捺印待ちの書類の山なら”俺の判があれば良いだろ”って、先ほど管理官がすべて持っていかれましたよ。』
降谷は、部署全体からの優しい眼差しに勿論気付いていた。
人知れず車で出勤した今日も、恥ずかしさもある中で降谷がわざわざ本庁まで花束を持ちながら出勤していたのには、実は理由がある。
安室透、バーボンとしての潜入捜査を終え、晴れて降谷零として警察庁へ帰ってきた降谷を周りは手放しで手厚く出迎えた。
賞賛や掛けられた優しい言葉の裏で、降谷は一人心から喜ぶ事が出来ず、いつ死んでも良いとさえ思っていた事への罪悪感からだ。
花束の先には、贈る相手が居る。
降谷が握る花束は、降谷からすれば生きる希望の象徴なのだ。
近くのパーキングに車を停め、暖簾を潜る。
「あ、いらっしゃいませ。」
勿論、店は貸切ではなかったが店内に客は居なかった。
着物という仕事着の影響もあってか、降谷の姿を見ても、今日のAは昨日と違っていつも通り落ち着き払っている。
「体調は?」
「お陰様で。今準備しますね。」
降谷はテキパキと動くAの背中を見つめながら、自然と口角が上がってしまう。
普段よく回る口も、今は閉じたまま。
言葉は要らない。
決して嫌な静寂ではないが、耐えかねたAがチラリと首だけ後ろを振り返ると、ニコニコと自身を見つめる降谷が居る。
「そんなに見つめられても料理は早く出てきません。
むしろ遅くなりそうです。」
「良いよ、その分一緒に居られる。」
今の降谷の楽しみは、女将の余裕を崩す事かもしれない。
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虎鉄(DC一時お休み中)(プロフ) - 休校さん» 休校様、返信遅れて申し訳ありません!コメント有り難う御座います(^^)上から目線だなんてとんでもない!感想だけでも嬉しいのに、面白いと言って頂けて本当に感激です。この作品は特に、言葉を大事にしたのでより嬉しいです!また読んで貰えると跳んで喜びます笑。 (2020年6月20日 10時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
休校 - とても素敵でした!今まで降谷さんのお話をはしごしてきたのですが、一番面白かったです。(上から目線不快に思われたら申し訳ない! 本当に、本当に、言葉といい、センスといい、ストーリーといい、弟子にしてください笑また、見にきさせていただきます。お疲れ様です (2020年6月15日 21時) (レス) id: e4ab2b5df5 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - 藍さん» 夜分遅く&返信遅くなり申し訳ありません。テーマは幸せ、だったのでそう感じて頂けて何よりです!文字数多くて読むの大変だったかと思いますが、それにも関わらず感想を下さり、本当にありがとうございます!これからも頑張れる様に頑張ります!笑。 (2019年5月13日 1時) (レス) id: f628ddcf07 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 読ませて頂きました!とっても綺麗なお話で、最後の幸せすぎる展開にお恥ずかしながら涙しちゃいました…笑これから続編も読ませていただくのですが、どうしても感想を伝えたくて仕方がありませんでした!これからも頑張って下さい!応援してます(*´ω`*) (2019年5月6日 23時) (レス) id: 8bfd8d1747 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ノンノンさん» 勿論覚えております^_^コメントありがとうございます!桜木美咲…!桜の木が美しく咲く、すごく日本らしくて素敵な名前に、自分でちょっとグッジョブと思ってしまいました笑。ノンノン様のコメントで私は幸せな気持ちです^_^本当に感謝です! (2018年8月2日 2時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年7月6日 0時