愛を込めて花束を2【降谷零】

11話 ページ33

「あ、ここで大丈夫です。」

降谷は静かに車を止めた。
Aがすぐ降りると思いキーロックを解除したものの、Aは動きを止め俯いたままで、静寂が車内に漂う。


「”楽しく生きよう。”」

「え？」

「”楽しく生きよう。
楽しくて損はないだろ？”
って…これも兄の口癖でした。
ずっと、忘れてた。」

「あの人らしい…。」

「今日はありがとうございました。
一気に色んな事が起こってまだちょっと信じられないんですけど…でも。
零さんで良かった。」

「Aさん…」

「零さん…、えっと、私」

「‼」


顔を上げたAの真剣な表情の中に、緊張と頬の紅潮を垣間見た降谷は思わず息を飲んだのも束の間。
一呼吸して意気込んだAの決意を折る様に、続きの言葉を紡ごうとしたAの唇を降谷は人差し指一本で封じた。

「そういう事は男の俺に言わせて。」

「……。」

そう言うと降谷は指を離した。
惚けた状態で固まったAの口元を、今度はAの両手が覆う。
降谷は、Aのその両手をそっと剥がし、優しく指先を握った。
突然の事にAは目をパチパチ瞬かせる。

「でも、今日はもう遅いからまた明日。
明日は何としてでも仕事終わらせて行く。」

降谷の宣言に対し、すぐに返事が来るかと思ったが、Aは何か考えを巡らせている様で。
やがて

「か…」

「か？」

キャパオーバーか、まるで壊れたロボットの様に固まるAを、降谷は首を傾げ見つめる。

「か、貸切の方が、良いんでしょうか…？」

「え？……ッ、いや…っ、いつも通りで良いよ…っ」

Aのあまりの真剣さに、降谷は再び肩を震わせて笑った。



ひとしきり笑った後、フゥと一息つく。

「変に構えなくて良い。
いつものAさんで…いや、いつものAさんが良いよ。」

「は、はい…。」

「おやすみ。」

恥ずかしさに俯くAを、降谷は下から覗き込み、優しく頭を2度ポンポンと撫でた。
笑っているのは、降谷だけ。







(後書き)
11話長かった…。
自分で書いてて大丈夫かなと思う、まだ付き合ってない。
案の定、全力で遊び、筆が進まない。
何となく、お盆までには完結させたい。

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