11話 ページ29
ふいに、視界に影が差したと思った瞬間にAの身体はそっと抱き寄せられた。
その手付きはまるで大切な物を扱うかのようで。
降谷の胸に顔を預ける形となったAの頭が、降谷の右手に包まれ
「一人で…っ、よく頑張ったな…っ」
降谷の震える声につられる様に
「……っ…」
Aも泣いた。
懐かしさや何とも形容し難い感情に、一瞬、精神的に崩れ落ちそうになった降谷だったが、しゃくりあげながらも静かに泣くAに、むくむくと庇護欲が掻き立てられ、なんとか持ち直した。
先程の電話からしても、Aは家族の反対をも押し切り今まで一人で頑張ってきたのだろう。
せめて、今この一時だけでも、思う存分甘やかしてやりたい、降谷はそう思った。
降谷の言葉を聞いたAの涙腺が緩んだ瞬間、Aの両手が彷徨った事に降谷は気づいていた。
「……甘えて良いんだよ。」
降谷は努めて優しく、Aの耳元で囁いた。
返事はなかったが、おずおずと回されキュッと掴まれた腰元のワイシャツの感触に、降谷は”今はまだこれで良いか”と心の中で笑みを零す。
「…ん、良い子。」
数分もすると、Aのしゃくりあげる回数も減り、時折自身を落ち着かせる様に深呼吸が混ざり始める。
そして、ワイシャツを掴んでいた小さな手が離れた。
降谷が名残惜しく思っている事など露知らず、Aは俯いたままそっと降谷から体を離す。
「す、すみません…取り乱しました…っ。
あああ…ワイシャツ汚してしまったんじゃ…」
俯いていたのは、どうやら気まずさや恥ずかしさからだった様で降谷は内心ホッとする。
そして甘い雰囲気(降谷視点)から一転、開口一番ワイシャツの心配をされるとは思わず、降谷は小さく笑った。
「ハハ…っ、あぁ…大丈夫だよ。
それより…」
そして一つ深く息を吸い込むと、降谷は笑みを消し真剣な顔でAと向き合った。
「謝らなきゃいけない事があるんだ。」
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虎鉄(DC一時お休み中)(プロフ) - 休校さん» 休校様、返信遅れて申し訳ありません!コメント有り難う御座います(^^)上から目線だなんてとんでもない!感想だけでも嬉しいのに、面白いと言って頂けて本当に感激です。この作品は特に、言葉を大事にしたのでより嬉しいです!また読んで貰えると跳んで喜びます笑。 (2020年6月20日 10時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
休校 - とても素敵でした!今まで降谷さんのお話をはしごしてきたのですが、一番面白かったです。(上から目線不快に思われたら申し訳ない! 本当に、本当に、言葉といい、センスといい、ストーリーといい、弟子にしてください笑また、見にきさせていただきます。お疲れ様です (2020年6月15日 21時) (レス) id: e4ab2b5df5 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - 藍さん» 夜分遅く&返信遅くなり申し訳ありません。テーマは幸せ、だったのでそう感じて頂けて何よりです!文字数多くて読むの大変だったかと思いますが、それにも関わらず感想を下さり、本当にありがとうございます!これからも頑張れる様に頑張ります!笑。 (2019年5月13日 1時) (レス) id: f628ddcf07 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 読ませて頂きました!とっても綺麗なお話で、最後の幸せすぎる展開にお恥ずかしながら涙しちゃいました…笑これから続編も読ませていただくのですが、どうしても感想を伝えたくて仕方がありませんでした!これからも頑張って下さい!応援してます(*´ω`*) (2019年5月6日 23時) (レス) id: 8bfd8d1747 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ノンノンさん» 勿論覚えております^_^コメントありがとうございます!桜木美咲…!桜の木が美しく咲く、すごく日本らしくて素敵な名前に、自分でちょっとグッジョブと思ってしまいました笑。ノンノン様のコメントで私は幸せな気持ちです^_^本当に感謝です! (2018年8月2日 2時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年7月6日 0時