愛を込めて花束を2【降谷零】

08話 ページ3

「本当に、他には何も残ってませんか？」

「…え？」

「立ち上がれない時は、思い出して下さい。
貴方の名前を呼ぶ声を。」






『あ‼安室の兄ちゃーん‼』

『安室さーん‼』

『おはようございます、降谷さん』

『あぁ降谷‼ちょうど良い所に。』

『やっと終わったな、安室君…いや、もう降谷君と呼ぶべきか。』

『あ‼安室さん‼おはようございます‼
聞いてください！
実は昨日大尉がなんと…』

『安室さんのハムサンド本当に美味しくて大好きでした。
…新一にも食べさせてあげたかったな。』

『もうお前は一人前の探偵だ、安室君。
しっかし何でお前みたいなのが俺の弟子なんて…』

『やったね、ゼロの兄ちゃん。』

『初めまして、工藤新一です。
ひとまず無事で何よりです、安室さん。
いや、もう呼んで良いですか？
降谷さんって。』




『あ、降谷さん！
行ってらっしゃい。』

『零さん』







「呼ばれる名前なんて何だって良いんですよ。
大切なのは、名前を呼んでくれる人が居るという事です。
自分が誰だか分からなくなった時は、ここでお話ししましょう。
貴方の事情は分かりませんが、少なくとも…今私がお話ししているのは、完璧そうに見えて自分の事になると意外と適当、でも友人を大切にする優しい人。
たまに子供っぽくて、けど誰よりも人の痛みが分かる強くも弱くもある人。
降谷零という、1人の人間に変わりないでしょう？」

「……っ」

目元を覆う右手が震えそうになる。

目を閉じたままの真っ暗な視界が、突然明るくなる。
カウンターから出てきたAが自身の右手をそっと引き剥がしたのだと、遅れて理解する。
そして、すぐに冷たいおしぼりが目元に当てられた。

視界を奪われた降谷の世界には、Aの言葉だけが優しく降谷を包み込む。

「幸せがどんな形でも良い。
幸せを諦めるのは、亡くなった人間に対する裏切りです。」





ああ駄目だ。

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