5 song. ページ6
「わ、わたし、人前に立つと極度に緊張しちゃって……上手く歌えないかもしれませんが、が、頑張ります」
皆がフロアにそれぞれ腰を下ろし、心春は立ったままギターを構える。じゃらん、と一度鳴らして、音程の確認。ピッチはあってる。
ネックを掴むと、ギュルっと弦が鳴る。顔を上げれば皆の視線が心春に向いていて、一気に体に力が入った。
歌いだそうとしても、なかなか喉から声が出てこない。これは。公園で歌おうとしていた時によくあった現象だ。
本当、意気地なしで嫌になる。こんな自分が、大嫌い。
悔しくて涙が出そうになった時、そっと傍に寄り添う影が視界に入り込んだ。
「なあ、何にそんな怖がってんの?」
いつのまにか目の前に立っていた環が、小さな心春に合わせるように膝を曲げて優しく問うてきた。横には他のメンバーたちがいて、それぞれが彼女を安心させるように笑みを浮かべていた。
(怖がっている? 確かに、私は今まで何を恐れていたのだろう)
「そうだよ。俺たち別にお前が歌って怒るわけじゃないしよ」
「でも、いきなり歌うのってすっごい勇気がいるよね!」
「確かになあ〜」
「なら、ワタシたちと一緒に歌を歌えばall OKデス!」
「ナギくん、良いアイディアだね」
「よっしゃ、いっちょやりますか」
気づけば心春たちは一つの輪になるように立っていて、三月が誰でも知っている曲をリクエストしてくれる。その曲なら、心春もコードを知っていた。
ギターをコン、コンと叩いてリズムを刻めば、陸がAメロを歌い始める。それに一織がのっかり、三月、大和と続いてメロディーを奏でる。その歌声たちが綺麗で、心から歌を楽しんでいる事が伝わってくる。
(ああ、私もこの人たちと歌を歌いたい)
そう思って、ギターを鳴らしながら、心春自身もメロディーに歌を乗せた。
途端、皆は驚いたように目を見開いたのち、楽し気に目を細めて歌を紡ぐ。
そうだ、歌って、こんなにも楽しいものなんだ。それを思い出させてくれたのは、皆だった。
サビを歌い終わり、最後の和音を響かせた後、きゅっと弦を止める。暫くあたりが静寂に包まれたかと思えば、全員が心春の方を向いて、距離を詰めてきた。
「す、すっげーな! 心春の歌声!」
「とても華やかで、のびやかで、引き込まれました」
「なんか、なんか、よくわかんねーけど、こはるんの歌ヤベー!」
「すっごく綺麗な声だったよ!」
「あ、あの、ぐるじっ」
つ、つぶれそう。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時