４５ song. ページ46
「ふん」
宗助は自身の胸倉をつかむ息子の手を振り払い、背を向けて去っていった。
「あんたたち、先に楽屋に行ってなさい。心春、あなたもね」
姉鷺が労わるような視線を心春に向け、横をすり抜ける際に肩を優しく叩いていく。
彼女が宗助の背中を追いかけていくのを、心春はただぼうっと見つめることしかできなかった。
「……森川、悪かった。うちの親父が」
「い、いえ！ 私は大丈夫ですので！ 頭をあげてください！」
深く頭を下げる楽に、心春は慌てて頭を上げさせる。本当はこんな謝罪だけでは許されないことを自分の父親はこのか弱い少女にした。そんな罪悪感に苛まれる楽だったが、目の前で困惑している心春を見て、渋々身体を起こした。
「あれ、ただの八つ当たりでしょ。自分が期待してた人にデビューを断られたからって、なにも森川さんを責める必要はないのに」
天は自身が所属する社長の行動を咎めるように呆れた表情でそう言う。
「社長の言葉は気にしないで？ 俺の母親もよく言ってたよ。子供に勝る宝物はないって。きっと心春ちゃんのお母さんも同じ気持ちだったと、俺は思うよ」
龍之介は励ましの言葉を心春にかける。その優しさに心が温まるのを感じ、心春はそっと口元を緩ませた。
「そうだと、嬉しいです」
微笑みながらも彼女の目尻にはきらりと光る涙が浮かんでいて、それを見た三人の胸に疼く何かを感じた。庇護欲を掻き立てられる彼女の仕草に、三人は無言で頭を撫でるものだからしばらく混乱していた心春だった。
□ ■ □
「八乙女くんとそんなことがあったんだね」
心春と万理が事務所に帰ってきてから向かったのは社長室だった。万理の判断で今日あった出来事は報告したほうが良いと、心春に進言したのだ。
「そうか、あの時の女性が、君のお母さんだったのか」
「へ！？」
「社長、心春ちゃんのお母さんと知り合いだったんですか！？」
懐かしむようにそう呟く音晴に、心春と万理は驚きの声を上げた。
「僕と八乙女くんがそれぞれ別の事務所を持つようになってすぐに彼から自慢されたんだよ。「彼女以上に素晴らしいシンガーはいない。自分が必ず輝かせて見せる」ってね」
「そう、だったのですね……」
心春の脳裏に、怒りと虚しさが入り混じった宗助の表情が浮かぶ。そんな表情をさせた原因は自分だと、切なげに眉尻を下げる。
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
