39 song. ページ40
心春はこの日初めて、テレビ局へ足を踏み入れた。
万理の背中を追いかけるまま関係者として中へ入り、楽屋へ向かう。
その道のりでは多くのスタッフたちとすれ違い、心春は丁寧に挨拶を交わしながら歩いた。
「心春ちゃん、歩き方がロボットみたいになってる」
「キ、キンチョウ、シマス」
「喋り方もロボットになってる!」
心春の緊張具合に万理もわたわたと戸惑い始めた。
「大丈夫だよ! あれだけ陸くんと壮五くんとTRIGGER鑑賞会をして勉強したじゃないか」
「は、はい……」
心春がTRIGGERさんの冠番組に出演が決まった翌日、RIGGERさんのファンである壮五と、実はメンバーの九条天と兄弟である陸が「いかにTRIGGERと言うグループが凄いのか」について勉強会をひらいてくれたのだ。
おかげでTRIGGERについての知識も増え、曲はほとんど弾き語りが出来るくらいのレベルに達することが出来た心春であった。
(皆さんの応援を胸に、今日は頑張らねばなりません!)
「あら、あなた……」
楽屋のある階にたどり着いた時、向かいからやってきた人物が心春を見て呟く。
長身で、さらりと踊る髪に、自分に合ったファッションを身に纏う人だった。
思わずほうっと見蕩れている心春に、その人物は厳しい視線を返した。
「貴女が森川心春ね? 私はTRIGGERのマネージャー、姉鷺よ」
「森川のマネージャー、大神万理です」
「あ、も、森川心春です! よろしくお願いします!」
万理と一緒にがばっと頭を下げると、心春の頭上から「はあああ」と重たいため息が降ってくる。
「どうしてこんなデビュー前のひよっこがうちのゲストなのよ……許可した社長もなにを考えているんだか」
再度、はああああ、と深いため息。
(つ、疲れていらっしゃるのでしょうか。そうですよね……大人気アイドルさんのマネージャーだもの、きっと忙しいに決まっている)
心春はトートバックの中からポーチを手に取り、中身を一つ姉鷺へ差し出した。
「お疲れの時は柑橘系がよいと聞いたので、ど、どうぞ!」
彼女の掌に置かれたレモン味の飴をみて、姉鷺は目をぱちくりとさせた。
むっと口をとがらせながらも、姉鷺の頬はちょっと赤らんでいるように見える。
「ちょ、調子狂うわね……」
ま、ありがたくもらっておくわ。と飴を受け取ってくれた姉鷺に心春は嬉しくてにっこり笑うと、何か気に障ったのか頬をびよーんと摘ままれてしまった。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時