３５ song. ページ36
「心春ちゃん、本当に、ありがとうっ」
「本当に、本当に、最高のステージだったよ！」
そう言ってぼたぼたと涙を零すマキとミサキに両側から抱きしめられた心春。
わたわたさせていた手で、戸惑いがちに二人の背中を撫でれば、心春を抱く力にきゅっと力が込められる。
「自分が決めた就職先だけれど、ミサキと離れることがすっごく寂しくて、不安で、本当はどうしようもなく怖かったの……だけど、心春ちゃんの歌を聞いて、勇気をもらったよ」
マキの言葉に、心春も我慢できずにボロボロ涙を溢した。
ミサキにも何度も「ありがとう」の言葉を貰えたことで、余計に涙が溢れる。
(ああ、歌を歌って本当に良かった)
そう、心から思えた瞬間だった。
心春にとっても忘れられない思い出となったステージから、数日。
いまだに余韻が残りつつも以前のように学校へ通い、放課後は作曲や歌の練習をする日常を過ごしていた。
今日も作曲ルームで思いつくままに音楽を奏でていると、扉が吹っ飛んでしまいそうな勢いで開いた。
盛大にビクッ！と体をふるわせた心春が恐る恐る入り口を見れば、そこには息を切らせた万理がいた。
「ば、万理くん、どうしたのですか……？」
「た、大変だ」
「へ？」
一体何があったのでしょうか。
何か悪いことが起こってしまったのではと思い心臓をドクドクさせながらも、心春は万理の言葉を待った。
「これ、見て」
そう言って、万理は手に持っていたスマホを心春に見せる。
画面には有名な動画配信アプリが開かれていて、画面に映っているのは紛れもなく心春だった。
よく見ればそれは大学の学園祭で歌っているときの映像だ。
「わ、わたしです」
「再生回数をみてごらん」
映像の下を見てみると、そこには信じられないほど膨大な再生数が記されていて、思わずごしごしと目蓋を擦った。自分の目が悪くなったのかと心配になる。
瞬きを繰り返した後にもう一度見るが、そこに書かれている数字が変わることはなかった。
「ええ！？」
「ラビッターでもT大学の生徒が何人も映像をあげていて、それがすごい勢いで拡散されているんだ」
次に見せてくれた画面には心春が歌う映像が貼られた投稿に、たくさんの拡散やいいね！がついていて、とうとう脳内がその情報を処理することができなくなってしまった。
『歌うますぎだろ！？』
『透き通るような綺麗な声……感動』
『この天使は一体誰なんだ！！？』
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
