【アイナナ】リトルシンガー (ページ34)

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３３ song. ページ34

教室へ訪れたのは、実行委員の大学生たちだった。

「心春ちゃん、準備はどう？」
「マキさん、ミサキさん！せ、精一杯頑張る準備はできています！」

　一瞬どこかへ散歩に出かけていた緊張感が戻ってきて、心春は必死に握り拳を作って息を巻く。
　
「……突然の依頼だったのに、引き受けてくれてほんっとうにありがとう」
「私たちも大学生最後の学園祭だから、どうしても成功させたかったの」

　マキとミサキはお互いの顔を見合わせて、切なげに微笑む。

「私とミサキは、幼なじみでね。幼稚園から大学まで同じ学校に通っていたのだけれど……私が就職で遠くに行くことになって、離れ離れになっちゃうの」
「だから最後に、学園祭を成功させて最高の思い出にしようねって約束したの」

　二人は瞳に涙をにじませながら、心のうちを心春に語ってくれた。
　ずっと隣にいた人との別れは、心が張り裂けそうなくらい切なくて、寂しいはずだ。
　だけど、お互い前を向いて、未来に向かって真っすぐ歩いて行こうとしている。
　
　そんなお二人に、自分ができること。心春の中には、一つしかなかった。

　マキとミサキの手をとり、心春はきゅっと力を込めて握った。

「精一杯、心を込めて歌います」

　真っ直ぐ見つめて宣言をする心春に、二人は一筋の涙をこぼしながらも、笑ってうなずいた。

　ステージの裏側。心春はギターのストラップを肩にかけ、ふうと息を吐く。
　不思議と、緊張はしていなかった。

「もう、励ましの言葉たちは不要みたいだね」

　穏やかな声色でそう言った万理は、彼女の肩をぽんと優しく叩いた。

「心春ちゃんの想いを、全部歌にのせておいで」
「……はい！」

『続きまして登場しますは、まだピチピチの女子高校生シンガーソングライター！森川心春ちゃんです！』

　司会のアナウンスの後に、ステージへ上がる。
　心春がそっと視線をあげると、ステージ下には見渡す限り人で埋め尽くされていた。いまだかつてないほどの人の視線を一身に集めているのに、心は夜の海みたいに静かだった。

　冷静にあたりを見渡す心春の目に、大きく手を振るIDOLiSH7の姿が映る。環と壮五はデビューして忙しいのに「絶対に観に行く！」と指切りげんまんしてくれたのを思い出し、ふふっと笑みが溢れた。

　本部のテント前では、心春よりも緊張した面持ちで見守ってくれるマキとミサキがいて、安心してもらえるように小さくうなずいた。