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31 song. ページ32

あの後「ありがとうございます!」と何度も頭を下げる大学生たちに「こちらこそありがとうございます!」とさらに深く頭を下げる心春。「いやこちらこそ!」とさらに腰を曲げるものだから負けじと頭を下げ土下座をしそうになったところで万理が心春の額を押さえて止めさせた。

 後日打ち合わせをすると言うことで大学生は事務所を後にし、社長室には心春と万理、社長の3人が残った。

 社長椅子から、社長が少し真面目な表情で心春を見つめる。

「T大学と言えば、この辺りじゃあ一番大規模で知名度のある大学だ。そんな大学の学園祭となれば、間違いなく心春くんにとって、これまでで一番大きなステージになるだろう」

 硬い声色でそう言う社長の言葉に、心春の身体には一瞬にして緊張が走る。
 だけど、そんな緊張を和らげるように、社長はふわりと優しく微笑んだ。

「君の歌唱力はまだまだ荒削りだけれど、聞く人に訴えかける力は人一倍強い。自信を持てば、最高の武器になるだろう」

 心春くんなら、大丈夫。
 そう最後に締め括られた言葉に、嬉しさで心春の心が震える。
 彼女の隣に立つ万理も、微笑みながら頷く。
 心春も応えるように、深く頷き返した。

「わたし、頑張ります!!」




 その日の夜。
 男子寮の食卓に座ると、心春の目の前には赤飯やら、トンカツやら、いつもと違うラインナップが所狭しと並べられていて首を傾げる。

「心春、学園祭の出演が決まったんだろ? だから、そのお祝い」
「T大といえば、このへんでは一番大規模な学校じゃないですか」
「大出世だな〜ハル」
「心春なら絶対成功間違いなしだよ!」
「そうだね、きっと君を好きなる人がいっぱいできるだろうな」
「おれも、こはるんの歌ききにいきてえ」
「マイクを通して、コハルの歌声が学園中に響き渡る。そんな素晴らしい光景を見逃すことはできませんね」

 そう言って、皆は「おめでとう」や「頑張れ」の言葉をたくさん心春にかける。

 こんなにも自分の可能性を信じてくれる人がいることは、この上なく幸せなことだ。そう思い、嬉しさできゅうと締め付けられる心臓を服の上から抑えて、心春は涙目で「ありがとうございます」を皆へ感謝の気持ちを送った。

 

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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時

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