３０ song. ページ31
「助けてください！！」
そんな切実な声が、休日の広場に響き渡る。
ライブが終わり、万理にお褒めの言葉をいただきながらギターをケースに仕舞おうとしていた心春は、中途半端な格好のまま固まって「へ？」と情けない声をあげた。
「学園祭のステージ出演、ですか」
場所がかわり、事務所の社長室。
テーブルを挟んで向かい合うように置かれたソファには心春と万理、そして向かい側には肩を縮こまらせた大学生の女性２人。その間に置かれたひとりがけ椅子に座ってきなこを撫でる社長が、大学生に優しく声をかけた。
「うちの心春くんに、出演依頼と言うことでいいかな？」
「は、はい……」
「さっきは、助けてください！って切羽詰まった様子だったけど、理由を聞いてもいいでしょうか？」
丁寧で柔らかな物腰で問いかける万理に、大学生が口を開いた。
「じ、実は……ステージに出演予定だったバンドが急に解散してしまって……学園祭まではもう時間もないですし、学校の中で出演してくれる人なんかいなくて」
「実行委員としては学園祭を失敗させたくないけど、どうしようもなくて途方に暮れてたところに心春ちゃんの歌声が聞こえてきたんです」
ぱっと顔を上げた大学生たちの視線が心春に集まり、無意識に背筋を伸ばした。
「優しくて、暖かな歌声に凄く心が惹かれて、悩みなんか吹っ飛んじゃうくらい楽しくなって」
「心春ちゃんの歌声が学園中に響いたら、きっとみんなも同じ気持ちになってくれるって確信して、勢い余ってあんな声のかけ方をしてしまいました」
「めっちゃ変質者でしたよね……驚かせてすみません！！」と頭を下げる大学生に慌てて「だ、大丈夫です！」と言って頭を上げさせる心春。
「心春くんは、どうしたい？」
社長が優しく、彼女に問いかける。
大学生たちを見れば、きゅっと祈るように手を組んで、必死な眼差しで心春を見つめていた。
実行委員として学生に喜んでもらえるような舞台を作るために一生懸命頑張ってきたのだということが彼女にも伝わってくる。
(私は、そんな方たちの力に、なれるでしょうか……)
不安げに隣にいる万理の顔を見上げると、彼は自信満々な表情で一つうなずいた。
まるで、心春ならば大丈夫だって言ってくれているように。
そんな彼を見て、心春は決心した。
「ぜひ、出演させてください！」
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
