3 song. ページ4
「はじめまして、今日から心春さんのマネージャーになる大神万理です」
「は、はじめまして! 森川心春です! よ、よろ、よろしくおねがいしましゅ!」
かんだ。盛大にかんだ。
恥ずかしすぎて顔から湯気が出てきそうなほど真っ赤になっている心春の頭上から「くっ」と笑いをこらえる声が降ってきた。
「あの……どちらかというと、声を上げて笑われたほうが気が楽です」
「ご、ごめんねっ……社長が言ってた通り、可愛い子だなって思って」
身に余る言葉すぎてぶんぶん、と首を大きく横に振る心春に、万理は柔らかく目を細めた。
「これから人前で歌えるようになるために、僕も精一杯サポートさせてもらいます」
「は、はい! 頑張ります!」
「まずは、自分に自信を持たなきゃね!」
一緒に頑張りましょう! と握りこぶしを作って息巻く万理に、ほっと安堵する心春。
いきなり小鳥遊にマネージャーをつけると言われた時はあまりの手厚い待遇に「デビューもしてないのに!?」と恐怖で震えていたが、万理の温和な雰囲気に人知れず安堵した。
「よければ俺にも心春さんの歌を聞かせてくれませんか?」
決して無理やりではない、優しい聞き方だった。
今日あったばかりの人に歌を披露するのはどうしても体が緊張して強張るけれど、これから一緒に歌を届けるお手伝いをしてくれる人の頼みを、彼女は断れなかった。
「お願い、します!」
万理に案内されたのは、レッスンルームだった。
小鳥遊事務所は確かに大きなプロダクションではないけれど、人材を育てるための施設は十分整っているように思えた。
「あ、皆もいたんですね」
「大神さん、お疲れさまです!」
レッスンルームの扉を開けると、中にはスーツ姿の女性と7人の男性がいた。一瞬で人見知りを発動させた心春はそっと万理の後ろに隠れて、スーツの端をきゅっと握った。
「バンちゃん、そのちっこいのダレ?」
近くにいた長身の男の子が万理の後ろに隠れた心春を覗き込んで指をさす。そんな彼に「こら!失礼だよ環くん!」とたしなめる白髪の男性。お母さんみたいな人だと、心春は心の中で呟いた。
「この子は今日から小鳥遊事務所の所属になる森川心春さん。君たちの後輩になるんだよ」
さあ、怖くないから出ておいで。なんて子供に声をかけるみたいに優しく背中を押され、心春は意を決して顔を上げた。
「森川心春です! 高校二年生です! よ、よろしくおねがいしにゃす!」
悲劇、再び。
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時