２９ song. ページ30
「それじゃあ！ これからも二人三脚で頑張っていくために、親睦を深めよう！」
ぱん、と手を鳴らして提案する万理に「しんぼく？」と心春は首を傾げる。
「わかりやすいところでいえば、名前の呼び方を変えませんか？ お互いさんづけだし、ちょっと距離を感じるなと前から思ってたんだ」
たしかに、と納得した心春はしばらく考えてみる。
「親しみのある呼び方って、どんなものでしょうか」
「そうだなあ。環くんくらいフランクな感じでいいよ」
そ、それは、難しい気がして、苦笑いを零す心春。
「それでは、万理さん、でどうでしょう」
「うーん、悪くないけど特別な感じがしないなあ」
親しみのある呼び方、といえば下の名前だろうと思って言ったが、いまいち納得できない様子の万理。
特別な感じ。心春としては年上に対してはさん付けは当たり前だったので、その概念を変える呼び方といえば。
「万理、くん？」
言い終えてから、この呼び方は失礼な気がして慌てて謝ろうとする心春に、万理は「それ、いい！」と大絶賛。
「年齢なんて関係なく親しい間柄って感じがして凄くいいよ！」
「で、では、頑張って呼んでみます」
にっこり笑顔でご機嫌な万理が「じゃあ俺は、心春ちゃんって呼ぶよ」と優しく笑う。
「心春ちゃん」
「ば、万理、くん……さん」
「だーめ。もう一度」
「万理さ……くん」
「おしい」
なんて、心春がちゃんと呼べるようになるまで練習は続いた。
年上をくん付けで呼ぶなんて申し訳なさが彼女の胸中に押し寄せてくるけれど、確かに距離が縮まったようで嬉しかったのも事実だった。
そんな穏やかな時間を過ごしている二人の元へ、何やら賑やかな声が聞こえてくる。IDOLiSH7の皆の声だ。
「なんだか楽しそうな声が聞こえるね」
「あはは、そうですね」
よし、行ってみようか。立ち上がった万理が、心春に手を差し伸べる。それに「はい！」と答え、その手を取った。
二人がコテージの中を覗けば、そこでは枕投げが開催されていて「こはるんもやろうぜ！」と環に誘われ戦場へと飛び込む。なんだか修学旅行みたいで楽しくなってしまったが、騒ぎを聞きつけた紡に怒られ皆と正座をして反省した、深夜。
さあ、明日からも立派なアーティストになるためにより一層頑張ろう。
心春はそう心に誓い、眠りについた。
より一層頑張る機会は、意外にもすぐにやってくることを、この時彼女は思いもしなかった。
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
