２６ song. ページ27
それは、ミューフェスの翌日のことだった。
「おはようございます！！」
一つお辞儀をして礼儀正しく事務所に入る心春を出迎えたのは、アロハシャツ姿の社長と万理だった。
「さあさあ、心春くんも準備をして」
「は、はい？」
「バーベキューに行くよ！」
かけているサングラスをずらして、ウインクを一つする万理はとてもかっこいいのだが、言葉の意味がいまいち理解できず首を傾げる心春。
「心春くんも、IDOLiSH7の皆も、これからが勝負どきだ。景気付けにひと騒ぎしようと思ってね」
そういうこと。と横にいる万理もにっこり笑う。
きっと、落ち込んでいるであろう皆を元気づけるために、二人が計画してくださったのだろうな。それが伝わって、心が暖かくなった心春。二人の優しさを無碍にするわけには、いけませんね。と思い、心春は胸の前で握りこぶしを作った。
「はい！ 私も一生懸命騒ぎます！」
きゅっと眉を寄せて真面目顔で頷くと「心春さんらしいなあ」と万理は笑った。
IDOLiSH7と万理、社長、紡と訪れたキャンプ場。
キャンプ場に来るのは人生で初めての経験で、あたりを囲む自然や穏やかなせせらぎを奏でる澄んだ川を見て心春は「ふはああ」と感嘆の声をこぼした。
「川だー！」
「川ですねー！」
喜びの声を上げる三月と心春に「見ればわかるぞ」と大和の冷静なツッコミが入った。
「それじゃあ、カレー班と、釣り班と、火起こし班に分かれよう」
リーダーの一声に皆が各々行きたい班を声に出す。キャンプといえば、火起こしでしょう！という短絡的な発想により、心春は火起こし班を選んだ。
メンバーは大和、ナギと一緒になり、火起こし初心者の心春とナギは大和の指示に従ってせっせと準備を行う。
「OH！火がつきました！」
「す、すごいですナギさん！ 魔法使いさんみたいです！」
ぱちぱち、と火花を散らせて燃える炎を見て興奮した心春とナギはイエーイ！とハイタッチをする。彼女が同じように大和にも手のひらを向けると、苦笑い気味にパチリと手を合わせてくれた。
「……社長さんから事務所へお誘いいただいてから、いいことばかりです。皆さんに出会うことができて、歌うこともできて、初めてキャンプに来ることができました。すごく、すごく、幸せです」
ゆらゆら穏やかに燃える炎を眺めながら、ふふふ、と喜びの笑みが溢れる心春。
優しく表情を和らげた大和は小さな頭をなで、ナギはそっと手を包み込んだ。
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
