23 song. ページ24
歌声が交わらず、向かう先が分からなくて戸惑うのような音色。必死に寄り添おうとしても、すれ違って、遠くなって、もどかしい。
7つの歌声が一つにならないまま、曲は終わってしまう。
しん、と静まり返る事務所内。心春の心臓は嫌にどくどくと音を立てた。
心春は何度もIDLiSH7のレッスンを見学して、時には一緒に歌ってきたからこそ、彼らの歌がどれほど魅力的なのかを知っている。
きっと彼に、何かがあったに違いない。
どうしよう、どうしよう。
そんな焦りにも似た感情がじわじわ湧いて、落ち着かない。ひとりで事務所内をおろおろ歩き出す心春を、社長と万理は不思議そうな表情で見上げていた。
「心春くん?」
「わ、私……い、行ってきます!!!」
衝動的に、部屋を飛び出した。後ろから「心春さん!?」と驚いたように名前を呼ばれても、心春の足は止まらなかった。
途中で作曲ルームに立ち寄り、ギターを抱えて部屋を出ようとしたときだ。
「待って!」
入り口に立ちはだかるように腕を広げた万理。心春は混乱したまま、ギターを抱えなおしてその場に立ち止まった。
「どこへ、行くの?」
「み、皆さんのところに、わた、わたし、が出来ることは、こ、これくらいしか……っ」
「心春さん!」
両肩を掴まれて、はっとする。ようやく酸素が肺に入ってきたのを感じて、彼女は荒い呼吸を繰り返した。
「落ち着いて、ゆっくり息をして」
背中を撫ぜられ、呼吸を促してくれる万理のおかげでようやく冷静さを取り戻すことが出来た。
「す、すみません……取り乱してしまって」
「それほど、みんなのことが心配だったんだね」
こくりと頷くと、万理は表情を和らげて、ぽんぽんと優しく心春の頭を撫でた。
「でもね、こんな夜に女の子一人で外へ飛び出そうとしたらダメだ」
「で、でも」
「俺を誘ってくれないなんて、寂しいじゃないか」
え? 驚いて顔を上げる心春の瞳には、困ったように笑う万理が映る。
「そういう時は「大神さん!私についてきて!」って言ってくれたら、俺はどこまででも君について行くよ」
「そ、そんなこと言えません!」
「えーショックだなあ」
「俺、マネージャーなのに」しゅんと肩を落として落ち込んだ様子の万理。
わ、私が間違っていたのでしょうか……と心春がひとりわたわたしていると、万理のスマホから着信音が鳴った。
「はい、大神です。
……え? 一織くんがいなくなった!?」
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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時